経営悪化で賃金カット!使用者の都合で変更していい?

景気が悪くなると荷主は、運送会社に運賃の値下げを要求してきますが、運送会社の弱い立場では断ることもできず、そのしわ寄せとして、従業員の賃金カットや解雇が行われることがあります。
実際に、運送会社の約50%が赤字経営(参照:全ト協調査)を強いられているので、運送会社にとって、この”しわ寄せ”は、経営存続の危機といってもいいですよね。
今のままでは、経営破綻してしまう。
苦渋の決断ではあるが、就業規則を変更して、まずは管理職以上の賃金をカットしたい。
経営環境の悪化による管理職の賃金カットが可能なのか?法律上なにか問題がないのか紹介していきたいと思います。
1.労働者条件の変更は双方の同意が必要
役員クラスとは違い、管理職は”労働者扱い”です。
就業規則を変更して賃金カットをする場合、労働条件の不利益変更の問題が出てきます。
とくに、いままで結んでいた労働条件等の労働契約の内容を変更する場合「どのような法律を意識しなければいけないか?」ということを意識するかと思います。
その答えは”労働契約法第8条(労働契約の内容の変更)”に書いてあります。
労働契約法第8条(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
労働者の不利益になる条件に変更する場合でも、労働者と使用者の合意さえあれば、労働条件を変えることができるのですね。
ただし、”労働者全員の労働契約の内容を変えたい”というときには、就業規則を変えることになります。
労働者の不利益になる場合には、労働契約法第9条が参考になります。
労働契約法第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
つまり、使用者が勝手に就業規則の内容を改正して、労働者の不利益になることはダメなんですね。
過去の判例
就業規則の変更に伴う過去の判例はどのようになっているのでしょうか?
じつは、参考になる判決があります。
新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されない。
(S43.12.25・秋北バス事件)
このように使用者の都合で、安易に労働条件を変えることができてしまうと、労働者は安心して働くことができないため、最高裁でも”原則として許されない”と判断しています。
2.経営危機のときには、
経営者が自分の都合の良いように労働条件を変えないようなシステムになっているのはわかるが…。
会社が潰れてしまったら、職員は職を失い、路頭に迷うことになるのでは?
労働者との個々の合意がなければ、労働者に不利益な就業規則の変更が一切できないかというと、そういうわけではありません。
経営破綻スレスレに陥ってしまったときに、賃金カットなどの労働条件の引き下げがまったくできないとなると、経営をそのまま畳むか、人員カットしか道はなくなります。
そうなると、かえって労働者にとって不利益な状況になってしまいますよね。
条件付きで使用者の労働条件の変更権が認めれる
経営困難なときに人員整理をせずに、長期雇用システムを維持、労働者の雇用を保障していくことの方が労働者にとってもメリットがあるときもあります。
このようなときは、労働契約法第9条の但し書き、同10条では、条件付きではありますが、使用者の労働条件の変更権を認める内容が書かれています。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
”労働者が不利益”にならないように守る…と言っても所属する会社が無くなってしまっては意味がないですよね。
会社を存続させた方が、労働者の利益に繋がるような場合には、例外が認められています。
3.就業規則変更の合理性
変更が合理的かどうかの判断要素には…
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
これらの表現ではやや抽象的なので、分かりずらいと感じると思いますが、簡単に言えば、就業規則変更するうえで相当な必要性があること。
そして、労働者への説明・交渉などを経て、変更後の内容もきちんと説明すれば、就業規則の不利益な変更であったとしても認められるというわけです。
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