私は、女性トラックドライバーですが、街中でよく見かける軽貨物や宅配便ではなく、”長距離輸送”しかもトレーラーに乗っています。
旦那が経営する運送屋さんのお手伝いをしていくうちに、私もハンドルを握るようになりました。
運行のメインは、”関東⇔関西”ですが、季節によっては”東北⇔九州”も走っています。いわゆるフリーに近い形で、決まった運行はなく、荷物のあるところに走って行って積んで下ろすといった感じですね。
女性ドライバーも多くなってきていますが、私のような長距離輸送、かつフリーとなると、女性はあまりいないのでそれなりに困ったことがあります。
これからドライバーを目指す女性に、私の経験談が少しでもお役に立てれば幸いです。
1.困ったこと①「トイレがない」
女性ドライバー共通の悩みです。
もともと男性社会であったので基本的に女性専用トイレがありません。
最近ではかなりマシになってきたのですが、会社の中・倉庫・納品先など行くところほとんどないことが多いです。あっても、個室一つだけ…が多く、困ることもしばしば。
また女性トイレに入るとき、男性の視線を感じたりするのも少し恥ずかしいです。
でも安心してください。
女性ドライバーたちは情報を交換しあっていて、
- 「〇〇のトイレは汚い」
- 「〇〇のトイレは使いやすい」
- 「△△に行くなら、〇〇に立ち寄った方がいい」
といったやりとりをしています。
昔に比べてかなりトイレは利用しやすくなりましたし、綺麗になりました。場所によっては、パウダールームが備え付けられているところもあったりします。
地方はまだ整っていない印象
私の経験ですが、都市部(例えば札幌・仙台・千葉・東京・名古屋・大阪など)はどこに行っても、女性専用トイレがありますが、地方に行くと無いところもあったりするのが現状です。
以前、一度あったのが、某東北の山奥に納品にいったときです。
経験上、「トイレがない」と分かっていたので、事前に下調べをしていたガソリンスタンドで使わせてもらってから納品しようと思っていたのですが…いざ行ってみるとそのスタンドは休業でした。
仕方なく、納品に行った山奥の倉庫を見て「やっぱり…」と思いました。
このあとの詳細は伏せておきますね。
こんな感じで、「都市部は整っている」「地方はまだまだ」といった整備環境なのです。
2.困ったこと②「お風呂に入れない」
天候や事故など想定外のことが起ってしまい「お風呂に入れなくなる」こともありました。私の場合は、最長、丸2日入れなかった経験をしました。
そのときは、ウェットティッシュを使用しましたが、最近では、水のいらないシャンプーなども売っているので、念のため携帯しておくのもいいかもしれません。
新人のときに体験した「お風呂」にまつわる思い出
豪雪で高速道路がほとんど通行止めになったときのことです。お風呂(個室シャワー)には男性ドライバーの長蛇の列ができていました。
たいてい「お風呂は、午前1時~3時が最も込み合う時間」。
- 仮眠明けに風呂に入るのが午前1時~
- 仮眠後に風呂に入るのも午前1時~
とにかくこの時間帯は人が集中するのです。
通常、ドライバーさんはある程度、混雑を予測しているので分散利用するのですが、異常気象時などはそれができなくなるのですね。
その長蛇の列を見て呆然としている私に、先頭から4番目くらいの男性が、突然、私に声をかけました。
「お~い、ここや」と。
私はまったく知らない人から声がかかったので頭の中は「?」となっていたのですが、その男性はすぐに「おい、〇〇子、はよこいや、遅すぎるわ!」と、いかにも、その男性は私と知り合いである雰囲気を作ってくれたのです。
当時、私は女の子の日で、どうしてもお風呂に入りたくて困っていました。なので、そのままその男性と4番目を交代してお風呂にはいれたのです。私は感謝してシャワーを利用させてもらいました。
入浴した後、そのドライバーさんがレストランで食事をしていたのでお礼を言うと「おお入ったか、じつはな、わしの嫁もハンドルで飯食っとる。女性はたいへんや。ハハハ。まぁ、がんばれや」といってそのまま立ち去り、出発してしまいました。
このあと、何回かこのシャワー室やレストランを利用しましたが、いまだお会いすることもできていません。新人の頃の忘れがたい思い出ですね。
このようなことは稀なケースなのですが、ドライバーをしていると想定外の理由でお風呂に入れなくなることもあるのです。
3.困ったこと③「荷物が運べない」
トラックへの荷物の積み込みは、
- フォークリフトなどを使って行う【力のいらない仕事】
- 荷物のひとつひとつを手で積む【力のいる仕事】
のふたつに分かれます。
通常、女性ドライバーの場合は、フォークリフトを使っての積み込みや、荷主さんに積んでもらうのですが、ごくまれに女性でも手積みをしなければいけないことがあります。
私の場合は、名前が男性でも用いられる「繁美」なので、間違われて苦労したことがありました。
「え?名前だけなら、性別を間違われることはないんじゃないの?」と思うかもしれません。
じつは、これもこの仕事特有のことなのですが、荷物にはそれぞれタグがついていて、それにはドライバーの会社名と、運転手名が記載されていることが多く、荷下ろし先はそのタグだけで運転手の性別を判別しているのです。
そして、タグを見たとき”女性ドライバー”であれば荷下ろしがしやすい倉庫へ誘導してもらえる、といったのがオーソドックスなスタイルです。
「名前」で男性と判断されないよう対策をするも…
私の名前が「〇〇子」と明らかに女性っぽい名前であれば問題ないのですが、経験上「繁美」では8割以上、男性ドライバーと間違われます(苦笑)
そのため、少し段差のあるホームやトラックの寄せが難しいホームなどに配車されてしまうのです。
ただ、私もそのような点は心得ていて、第三者からパッと見て女性ドライバーと分かるよう、髪の毛はロングにしていますし、フロントガラスまわりには女の子っぽいアクセサリーを置いていたりしています。
ですが、その荷下ろし先はまったく女性ドライバーを受け入れたことがなく、見向きもせずに普通のホームへ誘導されてしまいました。
女性では荷下ろしはツラい
「女性であることを申し出ればいいのでは?」と考えるのですが、現実は、申し出る時間がないのです。
…というのも、荷物の下ろし時間は、厳密に決められて1分1秒たりとも遅れることができず、遅れた場合は、最悪、運転手に罰金があるので、みんな必死で我先に…という状態なのです。
つまり、女性であることを申し出ることによって、他のトラックの納期に遅れが出てしまうと非常にまずいのです。
そのため、私は半べそになりながらも男性用ホームに荷つけをしなければいけないことになり、案の定、ひとつ荷物を下ろすのにかなり時間がかかってしまいました。
とうとう最後は、腕がしびれてしまって、泣きながら荷物を下ろした経験があります。
そのときも、まわりの男性ドライバーに手伝ってもらったことが忘れられません。
4.困ったこと④「高速道路でのいじわる」
「高速道路でいじわる」されることが、お盆とかゴールデンウィークなどでたまにあります。
たぶん、普段、あまり車に乗らないドライバーだと思うのですが、女性ドライバーが珍しいのか、また私の場合はトレーラーという大きなトラックに乗っているのが珍しいのか、いきなり私の前に走ってきてブレーキを踏んだり、ギリギリまで幅寄せされたりされることがあります。
また延々と並走で走ってきて、運転席をのぞき込む運転をしている迷惑ドライバーもいます。
このような運転をするのは、トラックドライバーよりも一般の乗用車を運転する方に多く、正直やめてほしいです。
トレーラーは急には止まれないことを知ってほしい
気になる気持ちはわかります。
けれど、他車への迷惑になりますし、事故に繋がってしまう恐れがあることも知ってほしいのです。
トレーラーは急ブレーキを踏むと乗用車のように容易に止まることはできません。テコの原理でヘッドの部分だけ折曲がるケースもあって危険極まりないのです。
幅寄せに関しても然りです。
トレーラーは前部のみが曲がるため、ハンドルを切り過ぎるとボディからはみでる部分があり、他車との思わぬ接触につながるケースもあります。
そのため、先輩女性ドライバーから教わったのですが、まわりから女性ドライバーということがわからないようにするため、車体の横は男性っぽい飾りつけをしているそうです。
つまり、一般の乗用車が横からトラックを見ても”男性のドライバー”と思うような仕掛けを作っているというわけです。
一般の乗用車を運転者さん、女性トラックドライバーにやさしくお願いします。
5.困ったこと⑤「暗い夜道の運行」
私の会社では、女性ドライバーは、原則、高速道路の移動。
下道でも国道移動で、無理なく仕事ができるよう配車係が段取りをしてくれています。
また行先も、できる限り、過去に行ったところを優先してくれるなど、事故が発生しないよう配慮してもらっています。
ですが、年一回程度は、他のドライバーの事情で、初めてのところや細い下道を走らなければいけないときもあるのです。
数年前の大雪で、36時間、丸々3日間、渋滞で動かず、また動いたと思ったら細い下道。しかも雪道を延々2時間走ったときは、もう死ぬかと思いました。
女性ドライバーの場合、特に新人の場合は、ランデブー(連行)といい、先頭にベテランさん、次に新人といった形で運行するのですが、そのときはベテランさんも来れなくてほんとに泣きそうになりました。
特に雪道は、わだちにハンドルをとられることも多いので細心の注意が必要です。
またトレーラーの場合、後輪は駆動しないので、注意しないと荷台部分だけが思わぬ方向へ向いてしまうこともあるのです。
幸いなんとか一人で行けましたが「もうあんな道は走りたくない!」というのが本音です。
6.困ったこと②「何もすることのない三日間」
配車係は、トラックの稼働をあげるため、また少しでも無駄にならないよう、荷物の下ろし地と次の荷物の積み地が近くになるようにスケジューリングします。
なので、だいたいは荷物を下ろしてから、次の積み地まで、半日程度で到着できることが多いのですが、途中、事故があったり悪天候などで、積み地についても「本来、積むべき荷物がついていない!」ということがたまにあります。
たいていは、長くても一日半から二日待機すれば荷物はやってくるのですが、過去に”三日間待機”ということがありました。
三日間となると、さすがに寝るだけではすまなくなります。
待機中にしていること
私は”三日間待機”期間中、普段、あまりできないトラックの大掃除や、PCで動画の編集をするなどをしているのですが、それでもまだ一日残っている…といった感じでした。
「三日間もあるのなら、トラックを置いてどこかへ遊びにいけばいいのでは?」と思う方も多いでしょう。ですが、私たちの仕事は、そのような場合でも、待機していつでも運行できるようにしておかないとまずいのです。
なぜなら、到着遅延の荷物もあれば、逆に早く到着してしまう荷物もあるからです。
通常、荷物は、複数の到着地を経由してくるのですが、悪天候などの際は、途中の経由地をスキップすることがあります。そして経由地をスキップした荷物は、予定より早く着いてしまうことになります。
私たちフリーの運転手は、この荷物を運ぶケースもあるのですね。
ですから、三日間といっても完全にフリーになるというわけではなく、あくまで待機中なのです。
そんなわけで、待機も三日目となると、
- やることがなくなる
- 狭いキャビン(運転席)にいないといけない
とうことでエコノミー症候群寸前までいったこともあります。
ちなみに男性の場合は「洗濯をして干す」のが定番のようです。
女性にはちょっと難しそうですね。
まとめ
女性ならではの悩みが多いですね。
でも、この仕事はドライバー間の仲間意識がたいへん強く、困っている時は、いろいろな人が助けてくれます。
特に女性ドライバーに対しては、まわりの男性ドライバーは、暖かい目でみていただいていますし、困っている時はすぐに救いの手が入ることが多いです。
たぶん、他の業界では、あまりないことだと思います。
「お互いがハンドルでご飯を食べている」という意識が強く、みんな助け合いながら仕事をしているといった感じですね。
これから「トラック運送業界に入ろう!」という女性は、
- 「免許がある」
- 「運転が好き」
- 「体が健康」
この三つがあればこの仕事はやっていけます。
最初は不慣れなことも多く、戸惑うこともありますがすぐに慣れてしまいます。
今は多くの女性ドライバーが増えてきていますし、悩みや迷いについては、すぐにアドバイスができる環境が整っています。どうぞ、自信を持って入ってきてくださいね。