とある会社の倉庫で荷物の積み下ろし作業をしていた乗務員が、高さ1mくらいの荷の上からコンクリート床に「ぴょーい」と飛び降りて足の骨を折ってしまったそうです。
飛び下りなければいけない構造にはなっていなかったそうで、少し荷の上を歩いていけば備え付けのハシゴがあったみたいだけど、その乗務員が「面倒くさい」と感じていたのと、「このくらいの高さなら大丈夫だろ。」と思い込んでいたようです。
ちなみに、その乗務員だけでなく、調査をしたところ、他の乗務員も同様のケースでは、荷の高さがそれほどもないと感じたときは飛び下りていたとのこと。
会社は作業の安全について、日頃から口を酸っぱくするほど指導していて、荷物の積み下ろしのときは、備え付けのハシゴを使うように指導していたので、今回の事故は心外と感じている模様。このように会社の指示を無視して、乗務員の勝手気ままな行為をした場合はどのような扱いになるのか、気になる経営者もいるのではないでしょうか。
1.労災認定されるには?
まず原則的な話をすると、仕事中の事故が労災認定されるためには、
① 業務遂行性 (事業主の支配下にある状態)
② 業務起因性 (その支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上、認められること) |
①と②が必要になります。
今回のケースでは、事故は【就業時間中】に発生しています。そのため、前半については、業務起因性の方は間違いなく認められます。問題となるのは、後半の部分。なぜなら、業務から逸脱した行為などによって発生した場合には、業務起因性は認められないことになっているからです。
つまり、私的な行為や気ままで自分勝手な行為を行ったために災害が発生してしまったときは、業務外の災害として扱われるというわけなんですね。
2.他の違反者もいるため、恣意的行為とはいえない
では、今回のような災害が乗務員の気ままで自分勝手な行為によって生じたものとして認められるかどうかがポイントになります。つまり会社としては「積荷への昇り降りには、かならず備え付けのハシゴを使わなければいけない。」と指導をしていたわけですよね。
それなのに、乗務員は「面倒くさい。」「このくらいの高さなら大丈夫だろう。」という気持ちでコンクリート床に飛び降り怪我をしてしまった。会社の指示を守らずに自分勝手な行為をしてしまったかどうかが問われるカタチになるわけです。
確かに乗務員は会社の指示に反しています。
ただし、その後の調査でも判明しているように、じっさいには、高さがそれほどでもないと判断したとき、他の乗務員も備え付けのハシゴを利用せず、飛び降りた者がいたというわけですから、今回、怪我をした乗務員だけが会社のルールを破ったというわけではありません。
つまり、自分勝手な行為で事故に繋がったとみなすのは、取り扱い上、バランスに欠き、あまりにも酷であり、無理があると言わなければいけません。つまり、今回のような違反では自分勝手な行為とはみなされず、結局は、業務上の災害として取り扱われる可能性大です。
3.労災にならないことが第一
会社は、仮に労働災害として認められたとしても最低支給制限の対象になると考えているようですが、この点はどうなるのでしょうか。
じつは、今回の要件は災害発生の直接の原因となった行為が、労働安全衛生法等の法令常の罰則のついた危害防止規程に違反したと認められることなので、これも乗務員の重大過失とまではいえず、支給制限にはならないということになります。
結果的には乗務員の視点からすると労災扱いになって良かった…。ということになるけれど、そもそも労災は起きないことが第一。結果の有無にかかわらず、会社としては、従業員に対する安全作業の遵守徹底の指示が求められそうです。