一般貨物自動車運送事業は、所有している車両について、点検・整備しなければいけませんよね。とくに、行政は、監査のとき、日常点検と定期点検の実施しているのか注視しています。
この点について、
・なぜ行政は点検を注視しているのか?
・どのようなルールのもと点検を実施しなければいけないのか?
・記録保存の仕方は?
気になることがたくさんあるかと思います。
そこで、今回は、一般貨物自動車運送の車両における定期点検について紹介していきたいと思います。
1.なぜ国は点検を注視しているのか?
トラックは公共の道路を使用して、たくさんの荷物を運搬しています。そのおかげで私たちは、豊かな生活ができるのですが、たくさんの荷物を運ぶためには、車体や重量も大きくなってしまいます。
そのような大型トラックが、交通事故を起こしてしまうと、どうなるでしょうか?
重大事故になりますよね。
すべての事故を未然に防ぐことは難しいかもしれません。ですが、事前の点検を行えば車両の不具合等を発見することができ、それが事故防止につながるというわけです。
車両脱落事故等による死亡事故
車輪脱落事故なども、事前に点検を行うことで未然に防ぐことができる事故と言われていますが、過去には、一般の方を巻き込んだ悲しい事故が起きています。
大型車のタイヤ脱落による人身事故の例
出典:朝日新聞
①2002年1月:
横浜市で三菱自動車製のトレーラーから外れた車輪の直撃で母子3人が死傷
②2004年2月:
北海道で大型ダンプから車輪が脱落、歩道を歩いていた幼児に直撃し死亡
③2008年4月:
静岡県の高速道路で大型トラックの車輪が外れ、対向車線の大型観光バスに衝突。バス運転手死亡、乗客7人負傷
④2016年11月:
札幌市で走行中の大型ダンプの車輪が脱落。走行中の軽乗用車に衝突し運転者が負傷
⑤2017年3月:
京都府で大型トラックの左後輪が脱落。約400メートル転がって信号待ちの軽乗用車に衝突し運転者が負傷
⑥2018年6月:
愛知県の国道バイパスで大型トラックのタイヤが外れ、対向車線の乗用車に衝突し運転者がけが
これらの事故を見ると、国が一般人を巻き込む事故を避けるために、厳しく見ているという理由が分かるかと思います。
2.3か月点検と12カ月点検とは?
道路運送車両法において、事業用自動車は、3か月ごと・12カ月ごと、定期的に点検を実施しなければいけません。(道路運送車両法 第48条)
その点検の間隔については、↓の表が参考になります。
事業用自動車・貨物自動車は、3カ月毎に定期点検を行わなければいけません。しかし、車検は↓のとおり、車両総重量によって異なりますので注意が必要です。
・車両総重量8t以上の車両は、新規登録から12カ月後。
・車両総重量8t未満の車両は、新規登録から24カ月後。
3か月点検と12カ月点検の違い
3か月点検と12カ月点検の違いはどのようなものでしょうか?国などの機関が配布するリーフレットなどには、次のように紹介されています。
まず、3か月点検は…
続いて、12カ月点検は、
3か月点検は車両の構造や装置が正常に機能しているかの点検で、全50項目。12カ月点検は、車検時に行う点検で3カ月点検よりも、その項目は増え、全部で99項目あります。
3.なぜ定期点検は外部に出さなければいけないのか?
運送会社が、定期点検に難色を示す理由として、認証工場に預けなければいけないことにあります。
運送側からしてみれば「車検に合わせて、12カ月毎に行うのであれば、まだ認証工場に依頼するのもわかるのだが、なぜ、3カ月点検も認証工場に車両をお願いしなければいけないのか?」といったところでしょうか。
なにしろ、定期点検1回にかかる費用もバカにはなりません。なぜ定期点検をしなければいけないのか、理由を知りたくなるのもわかります。
定期点検を外部に依頼しなければいけない理由は…定期点検の点検項目に分解整備を伴う項目があるからです。
「分解整備」事業を行うには、地方運輸局長の認証がなければ実施してはいけないことになっています。だから、運送会社は、定期点検を認証工場にお願いしなければいけないというわけなんですね。
4.分解整備とは?
国土交通省が作成している↑のリーフレットでも紹介されているのですが「分解整備」が必要な主な作業は…
①原動機(エンジン脱着)
②動力伝達装置(ドライブシャフト、プロペラシャフト脱着)
③緩衝装置(リーフスプリング脱着)
④かじ取り装置(タイロッドエンド脱着)
⑤制動装置(ディスクキャリバ、ブレーキドラムの取り外し)
⑥走行装置(ロアアーム脱着)
※トラックの定期点検(3か月点検・12か月点検)でネックになるのは、ブレーキ部分の⑤制動装置の部分です。この項目があるため、外部の認証工場に預ける必要があるのです。
分解整備は、これらを取り外して行う自動車の整備や改造をいいます。
もしも、無認可で分解整備を行った場合、道路運送車両法78条の規定に基づく認証がないとして、第109条の罰則が適用されます。
そのため、
・車の構造に詳しいから
・経費削減のため
などの理由で、分解整備を実施している運送会社もあるかもしれませんが、これは法律違反になってしまうので気をつけましょう。
道路運送車両法 第78条(認証)
自動車分解整備事業を経営しようとする者は、自動車分解整備事業の種類及び分解整備を行う事業場ごとに、地方運輸局長の認証を受けなければならない。
道路運送車両法 第109条(罰則)
次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
第78条第一項の規定による認証を受けないで自動車分解整備事業を経営した者
5.定期点検の罰則は重い
定期点検は原則、認証工場に預けなければいけないため、経費が発生します。そのため、運送会社の中には、車検時における12カ月点検は実施しているものの、3カ月点検を実施していないことがあります。
そうすると、定期点検未実施は年間3回という計算になりますが、それはリスクが高すぎます。
なぜか―?
もしも、行政監査時において定期点検が実施されていない場合は、他の項目と比べて、重すぎるくらいの行政処分が下されるのです。
その内容は次の通りです。
(1台の車両の1年間の未実施回数)【初違反】
①未実施1回 警告
②未実施2回 5日車×違反車両
③未実施3回 10日車×違反車両
主な例
他の行政処分の内容と比べると、初違反は「警告」「10日車」ということが多いのですが、定期点検は実施していない車両が多ければ多いほど、その違反日車数が増えてしまいます。
なにしろ、ほとんどの運送会社は、定期点検を実施しているか、実施していないかに分かれるからです。
そのため、5両所有のトラックが、③に該当した場合、10日車×5両=50日車も充分あり得るわけです。
行政処分の一覧表を見ると”日常点検”と”定期点検”の処分日車数はかなり厳しいです。なので、確実に実施しておきたいですね。
6.3カ月の定期点検は自社で実施できる
答えから言うと”できます”。
点検孔がある車両であれば、点検孔 から、ライニングの残量を目視で点検することができます。もしも、交換が必要ない状態であれば、分解する必要がないので自社点検でも問題ないようです。
ただし、ライニング残量が使用限度に近づいているときや異常が認められるときは、交換しなければいけないので、認証工場にて分解整備をお願いすることになります。
このように、条件次第では、自社で点検をすることができるため、トラック協会のHPなどでも、定期点検記録簿(3カ月点検用)の様式が公開され、ダウンロードすることができます。
自社で行う場合、必ず事前に適性化事業実施機関もしくは、運輸支局の整備部門に確認したうえで実施してください。
7. 定期点検記録簿の入手先
定期点検記録簿のダウンロード先としてオススメなのが【群馬県トラック協会】になります。↓にダウンロード方法を紹介していますので、参考にしてくださいね。
(1)上メニュー【適正化事業実施機関】をクリック
群馬県トラック協会のHPを見ると、上のメニューに[適正化事業実施機関]がありますので、そこをクリックしましょう。
(2)記事にある選択肢から【帳票類】をクリック
(1)の手順に添ってクリックすると、次は↑のイラストのように、あらたなメニューが出てきます。その中に[帳票類]がありますのでそれを選びましょう。
(3)定期点検記録簿をダウンロードする
すると、各種帳票類の一覧が出てきますので「〇点検関係」の中にある定期点検記録簿欄を選択してダウンロードしましょう。
なお、ファイルはEXCEL/WORDもしくはPDFタイプの2種類ありますので、好きな方を選択してダウンロードしてくださいね。
また、↑のイラストを見てわかる通り、点検は車両毎、行うものなので、牽引車と被牽引車がある場合は、まとめて1台ではなく、別々に定期点検を行う必要があります。
台車は、専用の定期点検整備記録簿(トレーラ用)の様式を使用しましょう。
8.定期点検の記録保存
定期点検の営業所への記録保存は、平成19年9月10日に努力義務化となりました。そのため、巡回指導でも定期点検の記録簿の写しの提示が求められます。
以前までの巡回指導では、定期点検記録簿を車両に載せているため、コピーを取っていないケースでも請求書や領収書で証明できればOKでした。
しかし、この法令が施行したことに伴い、請求書や領収書ではダメになったんえですね。なので、確実に各営業所に定期点検記録簿のコピーをファイルに綴じて保存しておいたほうがよさそうです。
ちなみに保存期間は1年間となっています。
まとめ!
定期点検は、いわば車の健康診断のようなものです。車両の買い替えが難しい昨今だからこそ、なるべくなら、プロである認証工場で実施してもらい、大切に大切に車両を使用したいところです。
安全かつ長持ちさせる。それは経営が苦しいトラック運送会社を運営する意味でも、とても大切なことだと思います。