「運送会社に運転手として入社した場合は、まず初任診断を受診しなければいけないと聞いたが、新卒などの未経験者と経験者は同じ扱いでいいのだろうか?」
運送会社の管理者になると、適性診断の受診について悩むことがあります。
初任診断の受診について、管理者のなかには誤認している方も多いので、今回は「初任診断を受診した後、退職して、再就職したら、また初任診断を受けろと言われたときの対処方法」について、紹介していきたいと思います。
1.つい最近、受診していた場合どうなる?
結論から言います。
トラック運転手は、運送会社に就職したら”初任診断を受診しなければいけません”。
では…
次のような場合はどうなるのでしょうか?
(1)A運送会社に入社
①自動車事故対策機構で初任診断を受ける
②社風が合わず、数日で退職
(2)B運送会社に転職
(疑問)
「数日前にA運送会社で初任診断を受けたばかりなのに、B運送会社でまた初任診断を受けなければいけないの?」
数日程度では、ほとんど診断結果は変わらないはずです。
けれど、法律上、初任診断はたとえ経験者であっても法人が変われば原則、受診しなければいけません。
1年くらい前なら納得できるけれど、ほんの数日前だと納得できませんよね。
「(短期間に)また初任診断を受けなければいけない…というのは理不尽じゃないの?」と感じると思うし、管理者なら判断に迷うところだと思います。
本当に難しい問題ですよね。
これは事業者も運行管理者も判断に迷っている人が多いです。
2.初任診断を受診して3年以内なら再利用可能!
A運送会社 ⇒ B運送会社
このように、原則、所属する法人が変わるような転職または転籍をした場合は「初任診断を受けなければいけません」。
ですが、今回のように初任診断を受診した後、すぐ別の運送会社に移ったようなケースでは話は別です。
【参考】貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針
(平成十三年八月二十日 国土交通省告示第千三百六十六号)第二章
特定の運転者に対する特別な指導の指針4 適性診断の受診
(2)運転者として常時選任するために新たに雇い入れた者であって当該貨物自動車運送事業者において初めて事業用自動車に乗務する前3年間に初任診断(初任運転者のための適性診断として国土交通大臣が認定したものをいう。)を受診したことがない者
当該貨物自動車運送事業者において初めて事業用自動車に乗務する前に初任診断を受診させる。ただし、やむを得ない事情がある場合には、乗務を開始した後1か月以内に受診させる。
「初任診断」を思い出せない人は、プレイステーションのレースゲーム「グランツーリスモ」をプレイ時に使用するようなハンドルタイプのコントローラーを使った、PC診断と言えば思い出すかもしれませんね。(注:自動車事故対策機構方式)
…ただ、この初任診断は、機械での診断で終了というわけではありません。
機械診断が終わった後、カウセリングが行われます。
受診診断結果は2部もらえる
機械診断とカウセリングが終了すると「初任診断」を受診したことになるのですが、診断結果票は、全部で2部もらえます。
①「運行管理者殿」と書かれた受診結果(1部)
②「【あなたの名前】殿」と書かれた受診結果(1部)
用途についてですが、①は会社の教育用、②はあなた自身のための保存用…と考えてください。
このときに渡された②の受診結果が手元に残っていれば(もしくは再発行⇒後ほど説明)、転職した運送会社に提出すればそれでOKです。
初任診断を受診した扱いになり、改めて「初任診断を受けなくてもOK。」という流れになります。
(ただし、受診結果票の有効期間は3年間となります。)
※平成13年8月20日 国土交通省告示第1366号 参照
3.初任診断を受診結果を紛失しているとき
しかし、過去3年以内で別運送会社で初任診断を受診したとしても、その結果票を大事に保存しておくでしょうか?残念ながら、たいていの場合は、紛失もしくは破棄しています。
でも大丈夫。
自動車事故対策機構で初任診断を受診していれば、400円で再発行してもらえます。ただし、個人情報保護法が年々厳しくなっているため、会社が代行して再発行の手続きを取ることができないので注意してくださいね。
だから、もしも、受診診断結果票を紛失していた場合、乗務員自身が自動車事故対策機構に電話して再発行の手続きを取らなければいけません。なので、乗務員が最近、初任診断を受診したというのであれば理由を説明し、再発行の手続きをしてもらいましょう。
なお、再発行の手続きは初任診断以外にもできます。
つまり、適齢診断や特定診断でもOKってことなんですね。希望すれば何度でも発行してもらえますよ。
4.規制緩和で管理している機関が異なる場合も
民主党政権時代、予算の削減や規制緩和を行った結果、適正診断は民間にも開放されました。だから、自動車事故対策機構以外の機関でも適性診断を実施できるようになったんですね。
受診できる機関が増えれば「事故対が予約がいっぱいなら、別の機関で受診したい」と考えている人は、選択肢が増えて便利になったと感じていることでしょう。
しかしながら、”再発行のみ”考えた場合、少し厄介です。
自動車事故対策機構で初任診断を受診していれば、自動車事故対策機構に連絡すれば再発行の手続きをすることができるのですが、別の機関で受診しているのであれば、その受診した機関で再発行の手続きをしなければいけません。
そのため、自身がどの機関で受診したのか忘れてしまい、再発行ができなかった。
もしくは、あらゆるところに連絡したという人もいます。
仮に、受診先が見つからなければ、もういちど初任診断を受けるしかありませんし、見つけたとしても、連絡する労力を考えれば受診した方がマシ…ということになりかねません。
もしものことを考えて、”受診した機関”は必ず覚えておきましょう。
5.3年以内の経験者であれば初任診断を受けなくてもいいという噂を聞いた
運送会社の中には、次のような考え方を持った管理者がいます。
『別運送会社のA社に最近、勤めていると聞いた。直近(3年以内)までトラックドライバー経験者であれば、初任診断を受診しなくてもいいと聞いたが…。』と言ったものです。この考え方は正しいのでしょうか?
答えは”No”です。
残念ながら、適性診断は「トラックドライバー未経験者だから、初任診断を受けなければいけない。」「ベテランだから他の運送会社に転職しても、初任診断を受けなければいけない。」と経験年数で区別していません。
原則、転職すれば、すべての乗務員が初任診断の義務対象者になります。(ただし特例あり⇒前述の1・2参照)
では、なぜ多くの運送会社が「トラック運送会社でのドライバー経験年数が長ければ適性診断が免除される」と勘違いをしてしまっているのでしょうか?
「初任診断」の「初任」という文字が、いかにも新人さんをイメージさせることもあるのですが、理由はそれだけではありません。
じつは、同じ新人教育のひとつ「特定運転者の教育(新たに雇われた乗務員専用の社内の安全教育)」は、過去3年以内に別の運送会社で営業ナンバーの乗務員経験があれば、任意扱いされるからです。ここを勘違いしてしまうのですね。
勘違いで行政処分を受けてしまってはもったいないので注意しておきましょう。
おまけ.適齢診断の取り扱い
「新たに雇い入れた乗務員の義務の適性診断が重複したときの対応法」では、新たに雇い入れられた乗務員で義務診断が重複した場合、優先順位に沿って1つ診断すればいいというお話をしました。
では、適齢診断を前の会社で3年以内に受診して、新たな会社に再就職した場合、適齢診断の受診結果を再発行して、いまの会社に提出すればOKなのでしょうか?
じつは、適齢診断は再発行して新たな会社に提出したとしても受診したとはみなされません。
初任診断と異なり、もういちど受ける必要があるんですね。
まとめ
適正診断の受診結果が再発行できる事実を知らない事業者が多いため、前運送会社で(3年以内に)初任診断を受診しているにもかかわらず、あらためて初任診断を受診させてしまうことがあります。
トラック協会からの助成金がありますが、県によっては、一部しか対象になっていないため、損をしていることもあります。予備知識としておさえておくと役に立ちますよ。