改善基準告示が改正しようとも、宿泊を伴う長距離貨物運送をしていれば、「拘束時間はいままでどおり、週2回は最大16時間とすることができる」と思っていませんか?
私の知り合いがいる運送会社と雑談をしていたのですが、長距離貨物運送の1日の拘束時間は「いままでどおりで問題ないだろ?」とおっしゃっていた方がいました。
いざ、長距離貨物運送を行っているまわりの運送会社とお話してみると、意外と同様の意見が多かったです。けれど、本当にその認識で問題ないのでしょうか?
今回は、改善基準告示改正に伴う「長距離貨物運送」の拘束時間について解説していきたいと思います。
1.長距離貨物運送の特例のおさらい
長距離貨物運送の特例を見てみましょう。
宿泊を伴う長距離貨物運送の場合(※1)、1日の拘束時間は、16時間まで延長可能(週2回まで)
※1)1週間における運行がすべて長距離貨物運送(一の運行の走行距離が450km以上の貨物運送)で一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合
私はこの特例をはじめて見たとき、うまくイメージすることができませんでした。
パッと見たところ、冒頭の運送会社の担当者がお話していたとおり、宿泊のある長距離貨物運送があれば、1日の拘束時間を16時間まで延長でき、いままでと変化がないような気がします。
ところが条件はそれだけではありません。
※1に「宿泊を伴う長距離貨物運送」の特例を使用するための条件が詳しく書かれていますが、この条件を満たしていなければ、適用することはできないのです。
そのため、長距離貨物運送を行う運送会社は、※1の条件を深く理解しておく必要があります。
文字にするとわかりにくいので、今回はイラスト等のサンプルを用いて説明していきますね。
2.1の運行とは?
まず、※1の「1週間における運行がすべて長距離貨物運送(一の運行の走行距離が450km以上の貨物運送)」の特例を理解するには、”一の運行とは何か?”これを思い出していただく必要があります。
過去の記事に詳しく書いていますので時間があれば参考にして欲しいのですが、簡単に言うと”1の運行”とは、【所属する営業所の車庫から、所属する営業所の車庫に戻ってくるまでの期間】をいいます。
トラック運転手の経験がある方は、運転日報に「出庫」「帰庫」で記載したことがあると思いますが、その出庫から帰庫までの期間だと思って下さい。
サンプルで言えば、
① 日曜日 6時出庫 ー 月曜日 19時帰庫
② 火曜日 9時出庫 ー 木曜日 22時帰庫 ③ 土曜日 9時出庫 ー 土曜日 22時帰庫 |
になります。
ちなみに1週間の起算日は、就業規則等に記載していれば、その曜日から。
とくに記載していなければ、起算日は”日曜日”からになります。
3.長距離貨物運送の特例を解説
”一の運行”を理解したところで、長距離貨物運送の特例を見てみましょう。
宿泊を伴う長距離貨物運送の場合(※1)、1日の拘束時間は、16時間まで延長可能(週2回まで)
※1)1週間における運行がすべて長距離貨物運送(一の運行の走行距離が450km以上の貨物運送)で一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合
また、長距離貨物輸送を行う場合は、休息期間の考え方も考慮しなければいけません。
宿泊を伴う長距離貨物運送の場合(※1)、継続8時間以上(週2回まで)
休息期間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与える
以上の条件から、長距離貨物運送に係る特例を使用するためには…
1)1週間におけるすべての一の運行の走行距離が450km以上であること
2)一の運行の休息期間が住宅地以外の場所であること(最低1回あれば良い)
3)休息期間が9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間が必要
この3つをすべて満たしていれば、拘束時間16時間以内(週2回まで)を従来どおり使用できるというわけなんですね。
1)1週間におけるすべての一の運行の走行距離が450km以上であること
① 日曜日 6時出庫 ー 月曜日 19時帰庫 …460km(〇)
② 火曜日 9時出庫 ー 木曜日 22時帰庫 …1100km(〇) ③ 土曜日 9時出庫 ー 土曜日 22時帰庫 …460km(〇) |
サンプルの1週間の一運行(①~③)をまとめてみました。
それぞれ、走行距離を確認してみると、すべて450km以上あります。
逆に、①・②・③いずれか1運行でも450km未満があった場合、条件には当てはまりません。
その場合は、拘束時間16時間以内の特例を使用することができないということになります。
2)一の運行の休息期間が住宅地以外の場所であること(最低1回あれば良い)
では、次の条件「一の運行の休息期間が住宅地以外の場所であること(最低1回あれば良い)」はどうでしょうか?
① 日曜日 6時出庫 ー 月曜日 19時帰庫 …住宅地以外あり(〇)
② 火曜日 9時出庫 ー 木曜日 22時帰庫 …住宅地以外あり(〇) ③ 土曜日 9時出庫 ー 土曜日 22時帰庫 …住宅地以外なし(×) |
サンプルの1週間の休息期間を見てみましょう。
この①~③を見ると、①・②は住宅地以外で休息をしていますが、③の土曜日は、休息期間は住宅地で取得しています。
ただ、先ほどの走行距離の条件とは違い、すべてが「一の運行の休息期間が住宅地以外の場所であること」の条件を満たす必要はありません。
最低1回でも「休息期間が住宅地以外の場所」であればいいので、サンプルの運行は、条件を満たしていることがわかります。
※”最低1回”の根拠については、厚生労働省労働基準局監督課より回答あり。
3)休息期間が9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間が必要
原則、休息期間は、9時間を下回ってはいけません。
ですが、拘束時間16時間までの延長が使用できる特例を使用した場合に限り、継続8時間以上(週2回まで)でもOKになります。
サンプルの1週間ではどのようになっているでしょうか?
① 日曜日 6時出庫 ー 月曜日 19時帰庫
…拘束時間16時間の使用なし。休息期間9時間以上あり ② 火曜日 9時出庫 ー 木曜日 22時帰庫 …拘束時間16時間までの延長あり。運行終了後、継続12時間以上の休息あり ③ 土曜日 9時出庫 ー 土曜日 22時帰庫 …拘束時間16時間までの延長あり。運行終了後、継続12時間以上の休息あり |
それでは解説していきます。
①は、拘束時間16時間まで延長していません。そのため、通常のルールどおり、運行終了後の休息期間は9時間以上あれば問題ありません。
一方、②・③は、拘束時間16時間まで延長しています。そのため、運行終了後、継続12時間以上の休息の必要になります。
…
このようにして見ると、たとえ、すべて条件を満たしたとしても、今まで通りというわけではありません。
拘束時間は16時間まで延長できても、休息期間は運行終了後、以前と比べて、多く与えなければいけないのです。
4.不測の事態が発生した場合、どうなる?
ここで疑問が生じます。
運転業務はいつも計画どおり行くとは限りません。ときに運行の途中で「荷主の都合により、走行距離450km未満になってしまった。」ということもあるでしょう。
荷主の都合などで不測の事態が発生することは珍しいことではありません。
いままでなら”よくあること”として捉えていたかもしれませんが、改善基準告示が改正されてからは問題が発生してしまいます。
サンプルのように、すでに週の前半に長距離輸送の特例である”最大拘束時間16時間”を使用してしまったにもかかわらず、1運行の走行距離が450km未満になってしまった場合です。
なにしろ、運送会社は、長距離貨物輸送の特例を理解したうえで、最大拘束時間16時間を使用する計画を立てていたわけです。それを「荷主の都合で覆られてしまった…」ことは、運送会社としては不可抗力ですよね。
運送会社の責任ではないので、当然、例外として認められると思ったのですが…
残念ながら、国の回答は、たとえ荷主の都合で”長距離貨物運送の特例”に当てはまらない事態になったとしても、特例の条件を満たしていないので、最大拘束時間16時間に延長されない。
つまり、水曜日の拘束時間16時間は”違反”としてみなされ、処分されるとのことでした。
これはさすがに納得できませんよね。
5.運行の変更だけではない問題点
問題点は、運行途中の変更だけではありません。
次のサンプルを見ていただきたいのですが…
【サンプル】
長距離貨物運送と地場を行っている運送会社があるとします。
【Aさん】
日曜日 … 地場 (走行距離450km未満) 【Bさん】 月曜日から長距離貨物運送を予定 ⇒ 体調不良でA氏と交代したいが… |
Aさんはすでに日曜日に仕事を行い、走行距離450km未満の地場の仕事を終えています。
そのとき、緊急事態が発生しました。
月曜日に長距離貨物運送を行う予定のBさんが出発前に体調が悪くなって運転ができなくなりました。
運行管理者は、Bさんの仕事は、過去にAさんが担当していたのでAさんにお願いしようとしたのですが…。
Bさんの仕事は長距離貨物輸送は、特例を前提とした運行計画でした。
…
答えは…
Aさんは、日曜日に450km未満の運行をしているので、特例の適用外として扱われ「違反」になります。
たとえ、不測の事態であっても、国は認めない方針のようです。(令和5年12月現在)
まとめ!
長距離貨物運送の特例についてまとめてみましたがいかがだったでしょうか?
安易に考えていたら、自社の運行では”適用外だった”ということで焦った運送会社も多いかもしれませんね。
不測の事態の例外については、今後、解釈が変更して欲しいものです。