「整備管理者に選任していた社員が退社してしまった…。」
「代表取締役が整備管理者をしていたけれど、死去してしまった。」
突然、選任していた整備管理者がいなくなった場合、規模の小さい運送会社では、代わりに選任する有資格者がいないことがほとんどです。
けれど、行政は、運送会社の都合は知ったことではありません。
どのような事情があるにせよ、15日以内に必ず変更届出を提出しなければいけません。
とはいえ、もしも、あなたの会社に代わりの整備管理者の有資格者がいない場合、どのようにすればいいのでしょうか?
おそらく…
- 整備管理者を新たに雇い入れる。
- 労働者に有資格者がいないか探す。
- 資格を取得する。
から選択することになるのですが、それでも、まわりに選任できる資格者がいない場合、苦肉の策として、
「前職の運送会社に勤めていたとき、整備管理者は外部委託していた。ウチも外部委託に頼ろう。」と判断した運送会社がありました。
けれど、ちょっと待ってください。
本当に整備管理者は外部委託をすることができるのでしょうか。
1.今回の問題の経緯
一般貨物運送事業を始めるために運送会社を立ち上げた知人Aさんから相談を受けました。
詳細を伺うと、許可申請のときは、Bさんに整備管理者になってもらう予定だったのですが、Bさんは家庭の事情で、急遽、「働くことができない」と断られてしまったのです。
Aさんは頭を抱えました。
「運輸開始のときに、運行管理者と整備管理者の届出がいるのに…。」
これでは、運輸開始をすることすらできません。
苦境に立たされたAさん。
何かいい方法はないか考え抜いた結果、あるアイデアを思い浮かべました。
「そういえば、前職の運送会社は、同じことがあったとき、確か…整備管理者を外部委託していたことがあったよな。あのときと同じ方法をすればいいんだ。」
Aさんは、すぐに私に「整備管理者になって欲しい」と依頼してきました。しかし、私は、Aさんに理由を話したうえできちんとお断りしました。
なぜ、断らなければいけなかったのでしょうか?
1.整備管理者の外部委託は、平成19年度で禁止に!
昔話になるのですが、私とAさんは、以前、同じ運送会社に勤めていました。
そのとき、私は整備管理者に選任されていた経験があったので相談してくれたのだと思います。
Aさんは、前職で、整備管理者が退職したとき、勤めていた運送会社に有資格者がおらず、私が資格を得るまで一時的に外部委託したので問題ないと思っていたのですが…。
じつは、法律が変わったのです。
平成19年9月10日に法律が改正。
整備管理者の外部委託はできなくなってしまいました。
運輸支局への届出は、雇用関係まで見られるわけではないので、おそらく、私の名前で変更届出をしてもバレない?でしょう。
ですが、巡回指導や行政監査になると話は別です。
誤魔化そうとしてもすぐにバレてしまいます。
そうなると大変。
事業停止処分30日が待っています。
ちなみに、なぜバレるのかというと、行政監査や巡回指導(国から指定された指導員が訪問してきて指導してくる)では、整備管理者選任届出の控えを確認した後、賃金台帳で名前があるか(つまり、雇用関係があるかどうか)など、さまざまな帳票類で確認するからです。
だから、届出の時点で国を騙せても、すぐにバレてしまうというわけです。
整備管理者が不在だと30日間の事業停止処分
監査方針の改正で、整備管理者が不在な場合、現在”事業停止30日”になっています。
それだけではありません。
適正化事業実施機関の巡回指導で「整備管理者がいない」と判断された場合、運輸支局への速報対象になり、場合によっては、即監査になってしまいます。
仮に整備管理者を外部委託して、まるで正社員のように見せかけて届出するのは、あまりにもリスクが高すぎます。
整備管理者は、すぐにでも資格者を探すか社員の誰かになってもらう。
もしくは、自分がなったほうが絶対にいいです。
2.整備管理者になるのは難しいの?
そもそも整備管理者の資格要件は、難しくはありません。
支局主催の「整備管理者選任前研修」に受講して修了証をもらい、2年以上の整備管理者の実務経験を会社から証明してもらえばいいだけなのです。
そうすれば、あとは整備管理者選任届を国に届けるだけ。
すぐに受理され、晴れて整備管理者になることができます。
ちなみに、実務経験は、あくまでも緑ナンバーのトラックでの経験のみ。
自家用ナンバーのトラックは対象外なので注意してくださいね^^
3.整備管理者選任前研修を受けるには?
整備管理者選任前研修は、事前に予約しなければいけません。
(所属する都道府県トラック協会によって異なる場合あり。事前に確認してください。)
また、受付は各都道府県によって異なりますが、トラック協会の会員事業所であれば、トラック協会が窓口になっていることがほとんどです。
非会員事業所である場合でも、とりあえずトラック協会に問合わせてみたほうがいいでしょう。
※私が所属している県では、非会員事業所の受付窓口は、トラック協会ではなく支局の整備部門になってました。
4.整備管理者選任前研修の開催が少ない
運行管理者は、基本、運行管理者試験に合格しなければいけません。
ですが、整備管理者は「選任前研修」を1日間だけ受講すれば、資格を取得でき簡単です。ただ、問題もあります。
それは、運行管理者の研修と異なり、「整備管理者選任前研修」の開催が圧倒的に少ないということです。
都道府県によって開催日数が異なるのですが、年に数えるほどしかありません。
なぜ運行管理者講習と開催数に開きがあるかというと…
整備管理者研修関係…国(運輸支局)が主催
運行管理者関係…民間(自動車事故対策機構、自動車学校、ヤマト等)
だからです。
国は講習だけを仕事にしているわけではないので、時間と人員、お金が足りないという話を聞きました。
…なので、「選任前研修」の開催が確認できれば確実に受講しておきましょう。
5.不測の事態を考えた行動を!
整備管理者は運行管理者と比べて、選任条件は厳しくありません。
整備管理者選任前研修を受講し「実務経験証明書」を証明するために運送会社から押印をいただく。それだけです。
「整備管理者の変更届出を出したい。」「整備管理者になりたい。」このようにふと整備管理者になりたいと思ったとき、どのような資格、書類が必要かわかりま... 整備管理者に選任するためにはどうしたらいいの? - トラックの杜│一般貨物運送事業に役立つ情報をブログでお届け! |
難しくないですよね。
外部委託を無理してする必要はありません。
整備管理者の選任要件を満たすよう行動する。
それが大切です。
なお、現在の整備管理者が、突然、退職してもいいように整備管理者選任前研修に受講するよう従業員のひとりに勧めておく。
不測の事態を考えて行動しておけば、何かあってもすぐに整備管理者の変更届出を提出することができ、巡回指導で「速報対象」や30日事業停止処分を避けることができます。
まとめ!
整備管理者を軽んじている運送会社はたくさんあります。
ですが、不在となればその処分の重さは運行管理者と同じです。そのことを忘れていると、二度と立ち上がれない程のダメージを負うことになりますので、気を付けておきたいところです。
とくに個人経営の運送会社は、社長が整備管理者に選任されている場合が多いです。
外部委託が選択できなくなったいま、運送会社を継ぐ息子さんに、早めに運行管理者と整備管理者の資格を得るよう説得(?)し、準備を整えておきましょう。
速報制度は、法人とはいえ家族経営をしている運送会社を苦しめる内容になっていますので、特に気を付けたいところです。