この制度では、運送会社が指導を受けるとAからEまでの5段階で評価され、特にDやEの評価を受けると罰則や改善が求められます。
評価が低いと改善指導が入るだけでなく、会社の運営にも影響を及ぼすことがあります。
今回は、この「巡回指導」の評価の仕組みやペナルティ内容、D・E評価を避けるためのポイントをわかりやすく解説します。
1. 巡回指導の「総合評価」って何? ~評価の仕組みを理解しよう~
まずは「総合評価」の仕組みを簡単に説明しますね。
巡回指導とは、適正化事業実施機関が運送会社が適切に運営されているかを確認するために行う指導のことです。
評価は全部で38項目あり、それぞれ「適」「否」「該当なし」のいずれか判定されます。
そして、「適」の割合に基づき、評価がAからEまで決まるのです。
巡回指導における「適」「否」「該当なし」の意味とは?
- 適:問題なしと判断された項目。
- 否:法令違反や改善の必要があると判断された項目。
- 該当なし:運送会社の実情により調査対象外とされた項目。
たとえば、長距離運送を行っていない運送会社に対しては「運行指示書」が調査対象外とされるため、該当なしの判断が下されます。この「該当なし」になった項目は評価の計算には含まれません。
総合評価の算出方法
巡回指導の総合評価は、「調査対象になった項目」のうち適の割合で決まります。例えば、ある会社の巡回指導の評価が適30件、否5件で該当なし3件だった場合、次のような計算になります。
適率=適の数/(適の数 + 否の数)=30/35=0.857
この場合、評価はBです。
ただし注意!
重点指導項目に「否」が含まれると、総合評価が1段階引き下げられるというルールがあります。
重点指導項目には…
- 運行管理者選任届出
- 過労防止
- 点呼
- 乗務員指導監督
- 特定運転者の特別指導
- 適性診断
- 整備管理者選任届出
- 定期点検
- 健康診断
など、計9項目あり、この項目でひとつでも違反があると、評価が1ランク下がる仕組みなのです。
そのため、適の割合ではB評価でも、適正化事業実施機関から提示される総合評価は、”C”ということになっていまうのです。
2. DやE評価を受けたらどうなる? ~ペナルティ内容について~
総合評価がDまたはEになると、会社には改善命令が出され、いくつかのペナルティが課される可能性があります。具体的な流れは次のようになっています。
1回目の巡回指導
まず、巡回指導を受けた際にDやEの評価が下された場合、運送会社には「改善文書」が適正化事業実施機関から送られます。
この文書を受け取ったら、運送会社は指摘された項目に対し、必ず改善を行い「改善結果報告書」を適正化事業実施機関に送付する義務があります。
逆に、改善文書を送付されたにもかかわらず、「いままで監査にならなかった。今回も大丈夫だろう。」と改善文書の提出を怠ってしまうと、運輸支局の監査・処分対象となってしまいます。
1回目から3回目まで共通しているのですが、特に”E評価”の事業所は注意が必要です。
2回目の巡回指導
改善報告書を提出しても、その後の再指導で再びDやEの評価が下された場合、同様に改善が求められます。
第1回目と同様のペナルティ手順が課されますが、さらに半年後に再び巡回指導が実施されます。
この2回目の指導でも改善が確認されない場合、行政からの介入が一層強まる可能性があります。
3回目の巡回指導
3回目の巡回指導で再びDやE評価が下されると、改善の努力が見られないと判断され、直ちに運輸支局に報告され、監査や処分の対象になります。
「仏の顔も三度まで…」とはまだにこのことですね。
チャンスが3度あったにもかかわらず、この時点で「改善の意思がない」「適正な運営が行われていない」と判断されると、改善文書を待たずして、行政による厳格な対応が予想されます。
3. 改善して評価をリセット! ~対応策を知っておこう~
巡回指導の評価が悪い場合でも、会社がきちんと改善を行えば、評価はリセットされることがあります。具体的には、以下のようなケースが当てはまります。
- 第1回目の巡回指導:評価D
- 第2回目の巡回指導:評価D
- 第3回目の巡回指導:評価A
この場合、第3回目で評価A(C以上)を取得したことで、巡回指導の頻度が「2年ごと」に戻ります。
リセットされると、次回の巡回指導は”1回目扱い”になります。
こうした仕組みがあるため、運送会社は「評価D・E」を受けてもそのままにせず、指摘事項を一つひとつ改善し、より良い評価を目指すことが重要というわけなんですね。
具体的な改善方法と対策
総合評価DもしくはEになってしまったらどうしたらいいのでしょうか?
改善文書が送付されてくるので、指摘された項目については、すべて改善しなければいけませんが、半年後の巡回指導でも総合評価DもしくはEになってしまうかもしれない…と戦々恐々としている運送会社もあるかもしれませんね。
けれど、大丈夫。
次回、巡回指導で満点を取る必要はないのです。
総合評価C以上になる。
そこを目指せばいいのです。
総合評価C以上になるためには、指摘された項目の中から自社が改善しやすい項目を確実に改善していくことがポイントです。
とくに、教育関係は巡回指導で指摘されやすいのですが、改善しやすいメリットを持っています。
また、運輸安全マネジメントも、年に1回作成すればいいので、対応しやすいですよね。
このように、優先順位を決めて、自社が取り組みやすい項目は、確実に記録保存することが大切です。
4. 総合評価D・Eを避けるための目安と意識改革
評価がDやEになるのは「否」の項目が7つ以上のケースがほとんどです。
否の数が少ないと、総合評価C以上が確保でき、厳しいペナルティの対象外になります。
このため、指導を受ける会社は、次回の巡回指導までに否の数が6つ以下に抑えられるよう、全社一丸となって取り組むことが重要です。
目標設定とチェックシステムの構築
運送会社にとっては、日々の運営の中でチェック項目を見逃さないようにするためのシステム作りが大切です。たとえば、以下のポイントを意識した業務体制の構築が有効です。
- 社員教育:乗務員の全体教育。特定運転者(初任運転者及び適齢運転者)への教育。
- 定期研修の参加:運行管理者や整備管理者研修について見落としがないか確認。
- 改善結果の共有:指導結果や評価について、経営層と現場が情報を共有し、協力体制を構築。
とくに、指導結果に基づいた改善が従業員全体に行き渡るように、指導後には改善案を周知し、従業員が共通認識を持てるようにすることが大切です。
5. 総合評価Eがもたらすさらなるリスク
総合評価Eを受けた場合、会社運営に対する制限が強化されるリスクも考慮しなければなりません。具体的には、新たな事業展開や運行計画の変更が制限される可能性があり、経営面でも大きな影響が出ます。このため、次回の評価での改善をしっかり行い、再評価の際にE評価が解除されるよう、早急に対策を講じることが肝心です。
まとめ
2023年から新たに施行された巡回指導の評価制度は、トラック運送業界の適正な運営を確保するための重要な措置です。一度低い評価を受けても、適切な改善を行えば評価は回復可能であり、長期的な事業の安定に向けた第一歩となります。