もしも、運輸支局が運送会社に対して監査を行ったとき、どのような項目が指摘・処分されやすいのか気になったことはありませんか?
私はすごく気になっていました。
他社の処分状況は、自社には関係ないかもしれません。けれど、他の運送会社が上手く取り組めていない項目は、意外と自社にも当てはまるからです。
つまり、法令遵守をしようと考えたとき、どの項目から改善すればいいかわからないと悩むと思いますが、「運輸支局の監査で指摘・処分された項目ワースト8」を参考にして、上位にランクインした項目から、帳票類の見直しする。
そうすると、スムーズに改善しやすいのは間違いないです。
ちなみに、このランキングは、私がテキトーに作成したのではなく、2019年に参加した研修会や運行管理者の一般講習などで講師を務めていた【運輸支局監査部門の担当官】が公表していたランキングになります。
地域によって多少の差はあるかと思いますが参考にしてくださいね。
ワースト1.運転者への一般的な指導及び監督不備
「運転者への一般的な指導及び監督」は、言い換えれば「乗務員全員に対する安全会議」ですが、残念なことに、この安全会議を、きちんと取り組んでいる運送会社はまだまだ少ないようです。
そもそも、トラック運送会社は、法律上、国が定めた指導教育指針12項目を1年間でかならず充足しなければいけません。
ちなみに、行政監査が行われた場合、帳票類だけでなく、ヒアリングをしながら実施しているか否か総合的に判断されます。ただ、原則、「乗務員全員」かつ「指導教育指針12項目を1年間で充足」していなければ、処分の対象になってしまうというわけです。
なかには、輸送の安全よりも構内作業など、労災関係の教育を重視している運送会社もあります。
ですが、労災ばかり教育していると、輸送の安全教育を忘れてしまうこともあるので、指導教育指針12項目は計画的に実施することが重要です。
ワースト2.運転者台帳作成不備
運輸開始のときには、適正化事業実施機関がすぐに巡回指導に来るので、乗務員全員の運転者台帳を整備していることが多いです。
しかし、作成するのは運輸開始のときだけ。その後、乗務員が入社してきても運転者台帳の作成をしてない、忘れていた…ということが多々あります。
運送会社の乗務員は、入れ替わりが激しいところが多いです。
だからこそ、入社した乗務員の運転者台帳の作成と退社した乗務員の運転者台帳の保存(3年間)を忘れずに管理しておきたいところです。
ちなみに、慢性的な人手不足や経営難で、事務員を雇い入れる余裕がない運送会社が多く、社長が帳票類を作成しているところもあります。
そうなると、日々の業務に追われ、運転者台帳の作成を忘れてしまったということはよくありますが、たとえ作成してなくても「黙っておけばバレない。」と思っている社長もいます。
たしかに短い時間で実施する巡回指導はごまかせるかもしれません。
ですが、運輸支局の監査は、書類をじっくり見るので、他の帳票類から選任運転者がどのくらいいるのか、だれが選任されているのか割り出すことは簡単なことです。ごまかしても、運転者台帳の未作成はバレてしまいます。
あとから入社した乗務員の運転者台帳をまとめて作成しようとすると、かならず忘れてしまうので、面倒かもしれませんが、運転者が入社してくるたびに運転者台帳を作成しておきましょう。
また、運転者台帳は作成していても、氏名・住所のみ記載して、その他の必要事項をほとんど書いていないというケースもあります。
記入されていない場合、巡回指導や行政監査において指摘されてしまいますので、時間があるときに、あらためて記入漏れがないかどうか確認しておきたいですね。
ワースト3.乗務時間等告示違反(過労)
運送会社は、平成2年の物流二法から右肩上がりに増え、過当競争になってしまった結果、かなり弱い立場にあるので、荷主企業から要請を受ければ無理な運行をしなければならないことが多いです。また、乗務員の運転時間は少なくても、荷主側の作業員数が足りずに長時間の待ち時間が発生してしまうこともあります。
もはや運送会社の自助努力では、改善基準告示を遵守することは難しい環境にあるといってもいいでしょう。
だから、乗務時間等告示違反(過労)がワースト1と思っていた人も多いかもしれません。ですが、行政監査の結果は、長距離輸送や荷待ち時間のない運送会社も含めているので、結果的に「乗務時間等告示違反」は全体のワースト3にランクインという結果になっています。
ワースト4.点呼記録不備
点呼記録簿には書かなければいけない項目がたくさんあります。
「AC検知器の使用の有無」「酒気帯びの有無」「疾病疲労の状況」「睡眠不足の状況」「指示事項」…全部書いてしまうと大変な量になるので省略しますが、とくに、最近は法律の改正で項目追加が行われています。
トラック協会で購入した点呼記録簿などが余っているので、在庫がなくなるまで、旧点呼記録簿を使用していることもありますが、項目不足になりますし、記録をしていない扱いにされてしまいます。記録しなければいけないところはきちんと記録しておいたほうがよさそうです。
ワースト5.点呼未実施
早朝深夜での対面点呼は中小企業の運送会社にとっては、困難ですよね。乗務員を運行管理者の補助者として任命して、点呼執行を行っているところもありますが、それでもすべてを実施することは難しい現実があります。
地場以外の運送会社は、この項目で指摘または処分されている可能性大です。
ワースト6.運転者への特別な指導不備
「運転者への特別な指導」では、
・未経験者や3年以上ブランクのある乗務員をあらたに雇い入れた場合の社内教育
・高齢運転者に対して、適齢診断の結果に基づく社内教育
・事故惹起者に対する社内教育
・新たに雇い入れた乗務員に対する事故歴の把握
などを行っているのかチェックされます。
いままで中小零細企業である運送会社のほとんどは、経験者の乗務員を雇い入れていたのですが、いまでは乗務員不足もあって「未経験者」や「高齢者」でも新たに雇い入れることが多くなりました。
ただ、いままで法律上、未経験者の教育や高齢者教育はあったものの、そのような条件の乗務員が入社することがなかったため、事業所もあまり馴染みがなく実施していないところが多いんですよね。その影響で、運輸支局の監査でもワースト上位にランクインしてしまったのではないでしょうか。
ワースト7.乗務記録記載不備
運転日報にも書かなければいけないことがたくさんあります。
そのため、乗務員に書かなければいけない項目は何なのか、丁寧に説明する必要があります。
もちろん、乗務員の中には、前運送会社で教育されたのか、きれいにきっちり書いている人もいるのですが、逆に性格上、丁寧に書くのが苦手な乗務員もいます。
ただ、GPS付のデジタコであれば、ボタン操作をしなければいけない欠点こそありますが、ある程度、法律に沿った運転日報が出来上がるので、乗務員のために、あえてGPS付の運転日報を導入したという運送会社もあるくらいです。
その運送会社は地場中心だったので、どうして導入したのか理由を聞いたら、ドライバー側がその運送会社が乗務員不足なことを知っているのか、指導するとすぐ「辞める!」と逆に脅してくるんだとか。そのため、指導することをあきらめ、トラック協会の助成制度を利用してGPS付デジタコに投資したそうです^^;
少し話がそれてしまいましたが、運転日報の記録不備で指摘・処分されている事業所が多いので、きちんと書くよう指導していきましょう。
ワースト8.健康診断未受診
運送会社の中には、健康診断の受診を軽く見ているところが多いです。
最近では、乗務員も高齢化が進み、健康起因事故が増えているのですが、若い乗務員が集まっていた昔の経営感覚で「健康診断なんかしなくても大丈夫!」と思っているケースが多いです。
とくに健康診断の受診の有無は、労働基準監督も運輸支局も重視しています。年1回の定期健康診断だけでなく、雇い入れ時の健康診断や特定業務従事者に対する健康診断も重視されているので気を付けましょう。
まとめ!
指摘や処分を受けているのは、改善基準告示ばかりではありません。
帳票類が未整備なため、損をしている運送会社が多いのです。
運輸支局の監査部門も「改善基準告示ばかり目がいくが、帳票類の整備をもう一度見直して欲しい。」と何度も言っていました。まず自分のできるところから、少しずつステップアップをしていくことが重要なのではないでしょうか。