トラック運送業界のためのブログやHPは少ないです。さらに、ふと感じた質問や疑問をぶつける場所はほとんどありません。
そのため、当ブログのコメント欄などを通じてさまざまな質問をしていただけることについて本当に感謝しています。
今回の質問は、運送会社の管理者をしている人からの質問で多い「1日の拘束時間の計算方法」について紹介していきます。
1.運行管理者試験にも出てくる
働き方改革の影響でしょうか。
以前と比べて、労働基準監督署の臨検や運輸支局の行政監査が増えています。
36協定などの届出に記載された時間外労働時間の数字などをもとに”拘束時間が長いと判断された運送会社”は、とくにターゲットにされやすい傾向があります。
拘束時間が長い=臨検の対象になりやすい
運送会社は、走れば走るだけ稼ぎになる時代は終わり、むしろ、走れば走るほどリスクが高まる傾向があります。
運行管理者試験に受験する人だけでなく、運行管理者に選任されている方も、今回、紹介する”1日の拘束時間”の計算方法はかならず頭にいれておきたい知識のひとつです。
なにしろ「1日の拘束時間の計算方法や考え方」は、運行管理者試験問題の常連ですから^^
拘束時間とは?
なお、1日の拘束時間は…
拘束時間=労働時間(作業時間+手待ち時間)+休憩時間
になります。
トラック運転手のお仕事は、運転だけでありませんよね。
- 運転
- 積込
- 荷卸し
- 附帯業務
- 荷主の都合による荷待ち時間
etc…
が発生することもあります。そして仕事の合間に休憩や仮眠を取る。
これが拘束時間です。
「休憩時間も拘束時間に含めるの?」と疑問を持つかもしれませんが、自由な時間のようで、必ずしも自由とは限りません。
所属している運送会社の命令のもと仕事の合間に身体を休めたり、食事を摂ったりする時間なので「休憩時間」も「会社の指揮命令下のもと」動いているというわけなんですね。
では、1日の拘束時間の計算方法を紹介する前に「1日の拘束時間はどのくらいまでなら問題ないのか?」について軽く解説していきます。
2.1日の拘束時間を把握するうえで知っておきたいポイント
1日の拘束時間の計算方法を紹介する前に知っておきたい改善基準のポイントは次のとおりです。
<改善基準のポイント> ●1日の拘束時間は原則13時間 ●延長する場合でも最大16時間が限度 ●休息期間は継続8時間以上 |
「拘束時間は最大16時間まで」のルールはありますが、実際に15時間を超えることのできる運行は【1週間に2回まで】です。
では、「拘束時間は最大16時間。休息期間が継続8時間以上」については「1日24時間である」ことを意識すれば、スッと理解できます。
1日(24時間)=拘束時間(16時間以内)+休息時間(8時間以上)
1日は24時間なので、休息時間を8時間以上、取得させたいのであれば、拘束時間は16時間以内になるのは当然ですよね。
どうでしょうか?
これで改善基準のポイントはマスターしましたね^^
3.拘束時間の計算方法がわからない!
次に、1日の拘束時間の計算方法です。
まずは上の表を見てください。
この表を見たとき、違和感を感じた人も多いと思います。
そう!
なぜか「火曜日と水曜日の1日の拘束時間が16時間」になっています。
ふつうに考えれば…
火曜日 ⇒ 22:00 - 8:00 = 拘束時間 14時間 水曜日 ⇒ 21:00 - 6:00 = 拘束時間 15時間 |
けっして16時間になることはありません。
ところが、運行管理者試験の過去問などを見ても、ふつうの引き算では拘束時間が算出できない数字になっていることがあります。
なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか?
4.貨物自動車運転者の1日は特別である
火曜日 ⇒ 22:00 - 8:00 = 拘束時間 14時間 水曜日 ⇒ 21:00 - 6:00 = 拘束時間 15時間 |
↑の数字がなぜ16時間になるのかを説明する前に、もしも、火曜日の1日だけ。水曜日の1日だけの始業時間と終業時間を行政(労働基準監督署や運輸支局の担当官)に伝えた場合、火曜日の拘束時間は14時間。水曜日の拘束時間は15時間と回答されるはずです。
私たちが行っている引き算と同じ数字です。
ですが、1日だけの始業時間と終業時間を伝えるのではなく、複数の日付の就業時間と終業時間を伝えると話は別です。
もういちど、先ほどの1週間の始業時間と終業時間の例を見てみましょう。
行政に、1週間分などをまとめたタイムカードなどを見せると、とたんに表の拘束時間に変わってしまいます。
すこしずつ、からくりが見えてきたと思いますが、1日の拘束時間を計算するとき、”その日だけ”に注目してはいけません。
まわりの始業時間・就業時間にも注目する。
それが、正しい1日の拘束時間を計算するために必要ということなんですね。
始業時間を意識する
通常、1日と考えたとき、あなたは何時~何時をイメージするでしょうか?
おそらく【1日=0:00~24:00】だと思います。この固定観念が【1日の拘束時間】を理解するうえで大きな障害になっています。
たしかに普通の会社に勤めていた場合、この【1日=0:00~24:00】の考え方で間違ってはいません。でも一般貨物自動車運送事業の1日の考え方は特別なのです。
一般貨物自動車運送事業の1日の考え方は、0:00~24:00ではなく…
始業から連続する24時間
になります。
運送会社の始業時間は変動する
一般のサラリーマンが勤めているような会社であれば、”始業時間 8:00から”というように、毎日、同じリズムで仕事が始まり、そして終わります。
しかし、トラック運送業界は違います。
荷主側の要望に合わせて、臨機応変に対応しなければならず、いつも同じ時間に出発することができない運送会社がほとんどです。
そのため、一般のサラリーマンと同じ計算方法では【労働者の健康を維持することはできない】と国は考えています。それが1日の拘束時間の計算方法をややこしくしている原因なんですね。
5.拘束時間の計算例
もういちど表を見てみましょう。
火曜日の始業時間は8:00です。
ここで、さきほど説明したトラック運送業界の1日は【始業時間から24時間】という特別なルールを思い出して下さい。
そのルールに合わせて考えると、火曜日の1日は、8:00~翌日水曜日の8:00までということになります。
この24時間の枠で改めて、1日の拘束時間はどのくらいあるのか見てみると…
● 火曜日 8:00~22:00 (14時間)
● 水曜日 6:00~8:00 (2時間)
になります。
つまり、火曜日(8:00~翌8:00)の拘束時間は16時間(14時間+2時間)となります。
水曜日の拘束時間も計算してみる
火曜日の拘束時間が分かったところで、翌日の水曜日も併せて計算してみましょう。
水曜日の始業時間は、6:00です。
始業時間から24時間で1日を考えるので…
● 水曜日 6:00~21:00 (15時間)
● 木曜日 5:00~6:00 (1時間)
が水曜日の拘束時間として扱われます。
だから、15時間+1時間=16時間になるんですね。
6.1日の拘束時間を計算するときに感じる疑問点
<火曜日の拘束時間> 火曜日 8:00~22:00 水曜日 6:00~8:00<水曜日の拘束時間> 水曜日 6:00~21:00 木曜日 5:00~6:00 |
1日の拘束時間の計算方法は理解できたと思います。
ですが、ここである疑問点が浮かんだのではないでしょうか?
あらためて火曜日を見てみましょう。
おそらく多くの人が感じた疑問点。それは、水曜日の6:00~8:00までの存在です。
この水曜日の6:00~8:00の時間帯は、①火曜日の拘束時間、②水曜日の拘束時間、どちらにも加えられています。
つまり、拘束時間がダブルカウントされていることに気が付くはずです。
「水曜日の6:00~8:00の2時間を火曜日と水曜日、どちらにも拘束時間としてカウントしているなんて変…。」と感じるもしれません。
ですが、不規則な生活だからこそ、あえて1日の拘束時間のダブルカウントを採用しているものと思われます。他の業界にはないルールだからこそ、運行管理者試験の常連にもなっています。
なお、今回、1日の拘束時間についてはダブルカウントが適用されましたが、1カ月の拘束時間ではダブルカウント抜きで計算されます。
※1ヵ月の拘束時間では、単純に各日、【終業時間ー始業時間】で計算し、合算するだけになります。
7.1週間に2回、拘束時間15時間以上OKだけど、その1週間の解釈とは?
トラックドライバーの労働時間等の「改善基準告示」を見ると、1日の最大拘束時間が16時間と書かれてあるのと同時に「1日の拘束時間が15時間を超えて勤務ができるのは1週2回以内」と記載されています。
けれど、よく考えてみれば、この1週に2回以内の「1週」はどの期間を指すのかわかりませんよね?
事業者が都合よく「今週の火曜から翌週の月曜日まで」というように決めてもいいの?とすら思ってしまいます。法律上、起算日が設けられているのでしょうか?
じつは、就業規則で「1週」の範囲が決められていれば、それが優先されます。
ですが、たいていは決められていません。
そのため、多くの事業所(就業規則などで定めていない場合)は、1週間は【日曜から土曜日まで】の暦週という扱いになります。(S63.1.1基発1号)
※つまり、就業規則に”木曜日”を週の起算日に決めていれば、表の内容(火・水・金…拘束時間16時間)だけで違反と判断できないことになります。
まとめ!
一日の拘束時間を計算すると、いざ一カ月の拘束時間を算出するときに頭が混乱してしまうこともあるかと思います。
1か月の拘束時間を計算するときには、むしろ、1か月の日数×24時間から休息時間の合計を引いてしまえば、間違いなく、1か月の拘束時間の数字が出てくると思います。