2024年4月から開始!トラック運転手の時間外労働の上限規制はどのように変わる?
働き方改革関連法が成立したことに伴い、トラック運転手の拘束時間も影響を受けることになりました。
そのひとつが「トラック運転手の時間外労働の上限規制」なのですが、2024年4月から導入される予定です。
ただ、時間外労働の上限規制が導入されるとはいえ、実際に適用されないと、いまいちピンと来ない部分もあると思います。
そこで、今回は、労働関係法令の改正のひとつである「トラック運送会社に係る時間外労働の上限規制」について、紹介していきたいと思います。
1.時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制は、トラック運送業界への影響が大きいため、トラック協会主催の研修会や巡回指導などで「労働関係法令が改正されました」などのリーフレットが配布されているかと思いますので、すでに目を通した人もいると思います。
この全ト協が作成したリーフレットが非常にわかりやすく、イメージしやすいです。
まず、「一般則」についてですが、運送会社でいえば、運転手以外…つまり、
- 事務職
- 倉庫作業
- 運行管理者
- 配車係
など、運転手以外の仕事を専門にしている人が対象になります。
↑にも記載されているように、
- 年720時間以内を上限
- 単月100時間未満(休日労働を含む)
- 2~6か月平均で80時間以内(休日労働を含む)
などの規制が導入されます。
トラック運転手の取扱いは?
では、ドライバー(自動車運転業務)に従事している者に対してはどのような内容になっているのでしょうか?
トラック運転手は、先ほど紹介した「一般則」には該当しません。
…というのも、トラック運転手は、宅配・工場・工事現場・スーパーなど、運ぶ内容は多岐にわたり、私たちの生活に欠かせない大事な職業です。
極端に物流の労働時間を短縮してしまうと、日本経済に多大な影響を与えてしまうため、「一般測」とは別に「自動車運転業務」として、別にルールが設けられているのです。
内容は、一般則よりも単純でわかりやすく、繁忙期・閑散期で対応しやすくなっています。
トラック運転手の規制の内容
では、どのような規制が適用されるのかというと、トラック運転手は、一般則の「年720時間以内を上限」ではなく、【年960時間(休日労働を含まず)】の時間外労働の上限規制が適用さます。
- 単月100時間未満(休日労働を含む)
- 2~6か月平均で80時間以内(休日労働を含む)
一般則にある、この二つの規制もありません。
なので、年960時間(月平均80時間)になると覚えておけばいいでしょう。
2.トラックの運転業務もするし、配車や運行管理業務も行うときは…?
運送会社の99%は中小企業です。
人員不足と言われていますが、余裕をもって従業員を確保することも難しい業界です。
そのため、一般(事務職・運行管理者など)と乗務員の両方をこなしている人もいます。そのような場合、一般則と自動車運転業務、どちらに該当するのか?と迷いますよね?
「乗務員として労働時間を管理すればいいのか、それとも乗務員に該当しない一般で管理すればいいのか」判断がつかなければ、時間外労働の上限が分からず、「ひょっとしたら、いまの業務内容では、行政監査が来たとき処分されるかもしれない」とリスクを感じるかもしれません。
一般則か自動車運転業務、どちらに該当するのか判断する目安を知っていれば、今後の業務も安心して取り組むことができます。
では、その目安について紹介していきます。
厚生労働省が各都道府県の労働局長あてに送付した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について」がポイントになります。
この解釈では「自動車の運転の業務の範囲」について次のように説明されています。
a.契約上、運転業務を主としている場合
まず、トラックドライバーとして運転することが労働契約上、主として従事する業務となっている場合は…
物品又は人を運搬するために自動車を運転することが労働契約上の主として従事する業務となっている者は原則として該当する
つまり、トラックドライバーとして契約した人は、「一般則」ではなく「自動車運転業務」の年960時間が適用されるということになります。
b.契約上、運転業務以外を主としていない場合
では、トラックドライバーとして業務することが労働契約上の主として従事する業務になっていない人(運行管理者・配車係をしていて人員が足りないときに運転している場合など)については、どのような解釈なのでしょうか
実態として物品又は人を運搬するために自動車の運転時間が現に労働時間の半分を超えており、かつ、当該業務に従事する時間が年間総労働時間の半分を超えることが見込まれる場合には、【自動車の運転に主に従事する者】として取り扱うこと
このように、目安は公表されています。
ですが、この解釈は非常にあいまいですよね。
さまざまなケースが想定されるため、けっきょくは現場の労働基準監督署の解釈にゆだねられることが予想されます。
3.1か月の上限そのものは設けられていない
営業車に乗務するトラックの運転手の時間外労働の上限規制は年960時間と決められています。
かんたんにいえば、1か月平均80時間になります。
80時間×12カ月=960時間
という考え方ですね。
そのため、1か月の上限が80時間というイメージが先行していますが、じつは、1か月の上限そのものには規定がありません。
たとえを出すなら…
繁忙期に時間外労働が100時間だったとしても、閑散期で時間外労働が少なく、年間の時間外労働が960時間以内であれば、問題ないというわけなんですね。
4.将来的には「一般則」を目指すことに
いまは「一般則」と「自動車運転業務」の時間外労働時間の上限に違いがありますが、国は将来的に自動車運転業務も「一般則」を適用したいと考えているようです。
5.月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引き上げ
トラック運送会社にとって時間外労働の上限規制が適用されただけでも苦しいのですが、さらに苦しめるのは2023年(令和5年)4月から中小企業でも適用される「月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引き上げ」になります。
従来、25%であったことを考えれば、コストがかかってしまうことになります。
↑は、全ト協で公表されていたサンプルです。
月74時間の時間外労働があったと考えて、改正前は、74時間の残業に対して25%割増。改正後は残業60時間まで25%割増。残りの14時間は50%の割増計算になっています。
b.契約上、運転業務以外を主としていない場合
「時間外労働の上限規制」である2024年ばかり目がいきそうですが、この時間外割増賃金問題はトラック運送会社にとっては大きな問題になりそうです。
…というのも「年960時間は月に換算すると月平均80時間」つまり「毎月20時間分の賃金は50%割増」になるということなんです。
労働時間の改善に頭を悩ましている中、あわせて労働基準監督署の臨検で残業代未払いとして処分を受ける。
トラック運送業界は、ますます厳しい経営環境に追い詰められそうです。
Sponsored link
コメント
-
2022年 5月 02日
度々拝見させていただいております。
恐れ入りますが、特例における時間外労働の時間を算定する方法についてご教示ください。
通常の勤務形態の場合は、1日8時間を超える拘束時間に対して、時間外労働時間とみなしています。
一方で、特例(隔日勤務、長距離運送、分割休息、2人乗務)の勤務形態の場合はどのように算定したら良いでしょうか?
これらの勤務形態の場合、1日8時間を超えるため、その都度、時間外労働時間とみなすのでしょうか?
それとも、月の合計労働時間が、法定労働時間(たとえば284時間)を超えた場合に、時間外労働時間とみなすのでしょうか?
記事を読ませていただき大変勉強になりました。ありがとうございます。ところで改善基準告示に示されている運転時間2日平均1日9時間とのかかわりはどうなるのでしょうか?1日だけ9時間に抑え2日目はかなりの程度残業しても可ということで、各種拘束時間の上限を踏まえ、協定を結び、年間960時間を守るという方向でOKなのでしょうか?ご指導よろしくお願い申し上げます。遅れました運送会社の総務をやっております
小松様、お世話になります。
改正される改善基準告示については、
運転時間2日平均9時間は従来どおりで
特に変更はありません。
あとは、おっしゃるとおり、
上限を踏まえて対応する方向で問題ありません。
ご回答ありがとうございました。となりますと日々のチェックが不可欠ですし、検査もここが中心になると思います。これらのために何か新規導入するとすれば何がいいでしょうか。当方弱小です高額なものは不可能です。よろしければお教えください