巡回指導の調査項目のひとつに「Ⅰ(1)主たる事務所及び営業所の名称、位置に変更はないか。」があります。(トラック協会等のHPを参考)
この調査項目では、会社の名称や位置を見られるのですが、どのような点をチェックされるのか、またどのような点に気を付ければいいのか、気になるかと思います。
私が過去に巡回指導に立ち会った経験や適正化事業実施機関に問い合わせした内容をもとに、運送会社が巡回指導前にどのような点に気を付けるべきか解説していきたいと思います。
1.名称・位置変更確認のチェックポイント
営業所や事務所の名称・位置が変更した場合、その変更を行政に適切に届出し、運営実態と届出が一致していなければいけません。
仮に一致していなければ、行政指導や法令違反によるペナルティのリスクが高まります。名称・位置変更確認の意義を理解し、トラブルを未然に防ぐための手順をしっかり押さえておきましょう。
以下の表に、名称・位置変更の確認時に着目すべき具体的なポイントをまとめました。
チェック項目 | 確認内容 | 注意点 |
---|---|---|
名称変更 | 営業所や事務所の名称に変更が生じていないか | 登記簿謄本や経営許可申請書を参照して確認 |
区画整理や地番変更 | 区画整理や地番変更など、住所変更が行われていないか | 住所変更が発生している場合、事業計画変更届出書を速やかに提出 |
物理的な移転の有無 | 営業所や事務所が別の場所に移転していないか | 住所変更が発生している場合、事業計画変更届出書を速やかに提出 |
無認可営業所の存在 | 認可を受けていない拠点で営業を行っていないか | 無認可営業所の運営は法律違反。速やかに認可申請を行う必要あり |
新規許可事業者の設備確認 | 営業所に業務遂行に必要な備品が整っているか | 電話、机、パソコン、点呼スペースなどが設置されていることを目視で確認 |
主にこの5点の確認が行われていますので、事前に違反していないか確認しておくことが重要です。
具体的な事例等があれば、イメージが付きやすいと思うので、これから、過去の事例も含めて解説していきます。
2.名称や位置変更確認の具体的手順
運送会社に長年勤めている担当者は、会社の基本情報について熟知しています。
しかし、行政書士や中途採用の職員はその内容を十分に把握していないため、確認する際には、過去、行政に届出した書類をもとチェックする必要があります。
参考にすべき書類とチェックの仕方のついて解説します。
1)書類確認
名称や位置変更確認の第一ステップは、必要書類のチェックです。
以下に確認すべき書類とその役割を詳しく示します。
- 登記簿謄本
営業所の名称や本社所在地が最新の情報であるかを確認します。
変更がある場合は速やかに修正手続きを行います。 - 経営許可申請書
事業の許可内容が実態と一致しているか確認します。
この申請書は行政への届出の基本資料となるため、最新の内容を反映している必要があります。途中で変更している場合は、次の「事業計画変更届出書」の方が最新データになります。 - 事業計画変更届出書
住所や名称に変更が生じた際、適切に届出が行われているかを確認します。届出漏れがある場合、巡回指導で改善するよう指導されます。
2)実地確認
書類確認が完了したら、実地での確認を行います。
以下の手順に沿って確認作業を進めましょう。
- 現地住所の照合
記載住所と実際の営業所所在地が一致しているかを確認します。
経営許可申請書や事業計画変更届出書には、平面図が添付されているはずなので、現在の位置と一致しているか確認しておくといいですね。 - 設備の整備状況確認
特に新規許可事業者の場合、以下の点を目視で確認してください。- 業務遂行に必要な備品が揃っているか。
- 点呼を行うスペースや機器が整備されているか。
- 無認可営業所の有無確認
営業所の実態が認可を受けた場所と一致しているかを確認し、認可外の営業所が存在しないことを確認します。もしも、認可外の地域に営業所が存在していた場合(離れていても、認可車庫として登録していることあり)営業所新設の届出をするようにしましょう。
3.トラブル事例とその対策
ここでは、実際に発生しやすいトラブル事例とその対策について詳しく解説します。
トラブル1:地番変更の届出漏れ
事例
営業所のある地域で区画整理が行われ、住所表記が変更された。しかし、変更が軽微であると判断され、届出が行われないまま業務が続けられた。
この結果、行政による台帳情報と実際の営業所所在地が一致せず、事業計画変更届出書の未提出を理由に行政指導を受けることとなった。
背景
区画整理や地番変更は、事業者にとって重大な変化と認識されない場合が多く、届出が不要と誤解されることがあります。
しかし、貨物自動車運送事業法では住所変更が軽微なものであっても、事業計画変更届出書の提出が義務付けられています。
トラブル2:無認可営業所の運営
事例
事業拡大に伴い、新たな営業拠点を設置。しかし、事業計画変更認可申請書を提出する前に業務を開始してしまい、後日、巡回指導で無認可営業所と判断され、改善指導を受けた。
背景
事業計画変更認可申請は、営業所の設置前に行う必要があります。しかし、許可が下りるまでの時間を考慮せずに拠点設置を急ぎ、届出が後回しになるケースが見られます。
コメント
荷主の要望で必要な車両が5両未満(例:遠方で3両だけ必要なケース)の場合、一部では無認可営業が行われているケースがあります。
経営者も「営業所を新設しなければならない…」と理解しているものの、新設には最低5両以上の登録が条件です。しかし、仮に5両で登録しても、実際には未稼働車両が発生してしまうことがあります。さらに、新設には運行管理者や整備管理者の選任が求められるため、これに伴う追加の人件費も発生します。
その結果、違反であることを認識しながらも、無認可営業を続けてしまう場合があります。しかし、このような行為は悪質な違反と見なされるため、確認された場合は速やかに営業所新設の届出を行うよう強く促すことが重要です。
トラブル3:必要な備品が不足している営業所
事例
新規許可事業者の営業所で、点呼スペースが確保されていない、あるいは点呼用機器が不足していると指摘された。これにより、運行管理態を適切に行われていない、つまり、事故リスクが高まると判断され、巡回指導などで指摘された。
背景
新規許可事業者では、営業所設置時に必要な備品やスペースの要件を正確に把握していない場合があります。これが原因で、許可取得後に基準を満たしていないことが発覚するケースが多く見られます。
コメント
法律が途中で改正された影響で、運送会社の運転手から独立して代表となった方々の中には、過去の経験(以前に勤務していた会社での慣例など)を基に、新たな法規制を十分に重視していないケースがあります。
4.Q&Aでよくある疑問を解消!
Q1: 名称や住所が変更された場合、どれくらいの期間内に届出を出さなければならないのですか?
A: 原則として、変更が発生してから 30日以内 に管轄運輸支局へ届出を行う必要があります。この期限を過ぎると行政指導や罰則の対象となる場合があります。
運輸支局の窓口も少数精鋭?の担当官で行っているため、年末年始や年度末などは混みがち。
また、運送会社側も通常業務が忙しい時期は期限を忘れがちなので、変更が判明した時点で速やかに対応をしたほうがいいですね。
補足情報
例えば、会社の商号を「株式会社〇〇運送」から「株式会社〇〇ロジスティクス」に変更した場合、法務局での登記変更が終わっても、運輸支局への届出を忘れているケースが目立ちます。
担当者にお話ししたときも「すでに届出している。」認識が多く、実際には、運輸支局に届出していないため、巡回指導で指摘される事例がよく見られます。
Q2: 軽微な住所変更(例:地番整理)も届出が必要ですか?
A: はい、必要です。住所変更が地番整理の変更によるものであっても、営業所や事務所が実際に存在する場所が変わる場合は、届出を行わなければなりません。
補足情報
軽微な変更でも、行政台帳と実際の営業所所在地が一致しない場合、巡回指導などで指摘を受けることがあります。たとえば、「〇〇市1丁目1番地」から「〇〇市1丁目1番2」に地番が変更された場合も届出対象です。
Q3: 名称や住所変更の届出を忘れた場合、どのようなペナルティがありますか?
A: 届出忘れが発覚した場合、管轄運輸支局から行政指導を受けます。
補足情報
例えば、住所変更の届出を怠ったまま営業を続けていた結果、2年に1度の巡回指導の通知が郵送された際に不達となり、その事実が発覚するケースがあります。
住所変更の未届出は、このように発覚しやすい項目の一つとなっています。
営業所の備品や設備に関する疑問
Q4: 営業所で必須とされる備品には具体的に何がありますか?
A: 基本的には、以下の備品が求められます。
- 業務遂行用の備品:電話、机、パソコン、印刷機など。
- 点呼スペース用の設備(点呼を行う場合):専用のスペース、アルコールチェック機器、運行記録計など。
補足情報
備品不足が指摘されると、運行管理や安全管理が不十分と判断される可能性があります。
Q5: 備品が整っていない営業所ではどのような指導を受けますか?
A: 必要な備品が不足している場合、巡回指導のときにチクリと口頭の指導を受けます。
無認可営業所に関する疑問
Q6: 認可営業所は建物も存在しているけれど、倉庫のような状態です。営業は離れた車庫内(調整区域で建物は登録できず)で行っているのですが…この場合も違反ですか?
A: 支局へ届出した認可営業所の建物があるなら問題ないように思えますが、営業拠点が移っている場合は、支局に届出を行っていないと判断され、指導を受けます。
補足情報
車庫に隣接して営業所を登録しようとしたものの、調整区域に該当して登録が認められなかったため、近隣のアパートを借りて営業所として登録するケースがあります。しかし実際には、車庫内に建物を設置してそこを営業拠点として利用している運送会社も見られます。
認可車庫で点呼を実施すること自体は可能ですが、認可営業所に使用実態がない場合は指導の対象となる可能性があります。
特に、近隣のアパートを認可営業所として登録した場合、巡回指導や行政監査の際、運行管理が行われている実態がない(帳票類がすべて車庫に保管されているなど)かどうか、適正化指導員は注視しているので注意が必要です。
その他よくある疑問
Q7: 名称変更や住所変更に関連する費用はどのくらいかかりますか?
A: 名称変更や住所変更に関連する費用は、以下のようなものが一般的です:
- 登記変更費用:法務局への手続き費用(登録免許税など)。
- 行政手続き費用:書類作成や行政書士に依頼する場合の手数料。
補足情報
例えば、名称変更の登記にかかる登録免許税は3万円程度です。また、専門家に依頼する場合、総額で5万円から10万円程度かかることが一般的です。
また、トラック協会の会員であれば、新設の届出も含め、サービスとして行ってくれるところもあります。(都道府県によってサービスが異なるので事前確認必須。)
※今インフレが進んでいますので、当時の記憶と価格が異なる場合があります。
詳しくは、行政書士に問い合わせしましょう。
まとめ
営業所や事務所の名称・位置変更の確認作業は、事業運営において欠かせないプロセスです。確認作業を怠ると、法令違反や行政指導を受けるリスクが高まります。
本記事で紹介したチェックポイントや具体的な手順を参考に、日々の運営管理を徹底しましょう。
コメントを残す