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トラックの修理代をドライバーの給料から天引きするのは問題?

ドライバーがトラックを運転中、自損事故を起こした場合、修理代を給料から差し引いている…という会社も多いのではないでしょうか。

たいてい、このような制度を採用している会社の言い分としては「自己責任として、給料にも影響が出る制度の方が事故が減る。」「じっさいに効果があった。」ということが多いです。

ただ、もしも、ドライバーから「労働基準法違反ではないのか?」と抗議されたら…と不安に感じている会社もあるかと思います。では、じっさいに、修理代等、給料から天引きすることは問題ないのでしょうか?

1.労働基準法ではどのようになっているの?

そもそも賃金というのは、労働者にとっては、生活の糧ですよね。確実に支払ってもらわないと日々の生活に支障が出てしまいます。そうした意味でも、労働基準法では、賃金の支払いは、原則として「全額払い」ということになっています。

その根拠としては…労働基準法 第24条のとおり

① 通貨払い
② 直接払い
③ 全額払い
④ 毎月1回払い
⑤ 一定期日払い

のいわゆる【賃金支払い5原則】が定められていて、そのひとつ「全額払い」に該当するというわけなんですね。

また、今回のように損害賠償の相殺ということであったとしても、過去の最高裁判所の判例において、労働基準法24条第1項に基づき、「賃金債権に対して損害賠償債権をもって相殺することは許されない。」という判決を下しています。

つまり、給料からのトラック修理代の天引きは、違法ということになってしまうんですね。

2.給料の天引きが認められるもの

では、天引きがまったく許されないかといえば…じつは、そういうことではありません。給料明細を見てわかるとおり、

① 法令で定められているもの … 税金や社会保険料等
② 労働組合、労働者代表と控除協定を締結した場合 … 組合費、購買代金、その他
③ 福利厚生施設の費用、生命保険料等

これらについては、賃金から控除しても問題ないというわけなんですね。けれど、トラックの修理代の天引きとなると話は別です。

3.制裁として減給処分としての扱い

それでは、賃金からの控除が違法なら、「減給の制裁」として取り扱うのは、どうなのでしょうか?

じつは「減給の制裁」も注意が必要になってきます。

労働基準法第91条において、減給制裁を行う場合、その減給の「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない。」というルールがあります。

これがトラックの修理代となると、おそらく減給の制裁としても違法にされてしまう恐れがあります。

以上のことから、会社はどのような名目であれ、従業員の賃金から一方的に天引きすることはできないということになります。

4.ドライバーが自損事故を起こした場合は?

それでは、ドライバーが自損事故を起こした場合、どうすればいいのでしょうか?

じつは、従業員の過失等による事故の損害について、その実損額の範囲内で弁償を求めること自体は禁止されていません。

今回のテーマのようにトラックの修理代は、全額は無理としても、会社と従業員との間の民事上の問題として解決を図る-このような流れになります。

最高裁の判例でも…

「使用者は、(中略)諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる。」(「㈱茨石事件」最一小判 昭51.7.8)

とされています。

5.会社はどの程度、運転手本人の責任を追及できるの?

運転手本人が交通事故を起こしても、責任を追及されるのは会社です。

民法第715条
「事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」

「事業の執行について…」と書かれているので、当然、運転手が会社のために働いている時間に起こした事故が対象になります。これを、一般的に「使用者責任」と呼んでいます。

運送会社は、トラックの運転手に運転させることで利益を得て(報償責任)、トラックを運転させることで危険な状況を生み出している(危険責任)。

だから、直接の加害者でなくても、賠償する責任を負うわけです。

特に自動車の運行については…

自動車損害賠償保障法第3条
「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」

と規定しています。

過去の判例を見てみる

だからといって会社がすべて責任を負担するとは限りません。

従業員側に過失があったとしても、過去の裁判では、2割から…多くても4割程度の求償しか認められていません。

ひとつ判例を見てみましょう。

たとえば、

大阪高判 H13.4.11
トラックをスリップしてトンネルの側壁にぶつけた事故。「会社で交通事故が日常茶飯事だったのは、従業員自身の不注意のみならず、労働条件や従業員に対する安全指導、車両整備等に原因があったため」

このように述べ、修理費用の5%相当の求償を認めたにとどめる程度になっています。

まとめ!

今回は、トラックの修理費をドライバーの給料から天引きしてもいいのか否かについて、まとめてみましたが、給料の天引きは労基法の賃金「全額払い」の原則に反し違法。実損額の範囲内で民事的な解決を…ということになります。

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