【まとめ】一般貨物自動車運送事業の適性診断とは?必要性や注意点を解説
トラックが人身事故などを起こしてしまったとき、ニュースで大きく取り扱われることがあります。
耳を傾けていると、最近では、「〇〇運送会社は、法律で義務付けられている適性診断を受診させずに…」など、運送会社の安全対策への取り組みについて大きく報道されることが増えました。
その影響でしょうか?
いままで適性診断に関心のなかった運送会社の担当者が「運転手に受診させようと思っているのだが、なにから始めたらいいのか伺いたい」と問い合わせをいただくことも増えました。
そこで、今回は、適性診断についてまとめましたので、参考にしていただければと思います。
1.適性診断とは?必要性について解説
国土交通省令により、特定の運転者(初任運転者・高齢運転者及び事故惹起運転者)は、適性診断をかならず受診しなければいけないことになっています。
(従業員に対する指導及び監督)
(貨物自動車運送事業輸送安全規則)
第10条
2 一般貨物自動車運送事業者等は、国土交通大臣が告示で定めるところにより、次に掲げる運転者に対して、事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき事項について特別な指導を行い、かつ、国土交通大臣が告示で定める適性診断であって第十二条の二及び第十二条の三の規定により国土交通大臣の認定を受けたものを受けさせなければならない。
一 死者又は負傷者(自動車損害賠償保障法施行令(昭和三十年政令第二百八十六号)第五条第二号、第三号又は第四号に掲げる傷害を受けた者をいう。)が生じた事故を引き起こした者
二 運転者として新たに雇い入れた者
三 高齢者(六十五才以上の者をいう。)
特定診断は、事故惹起者のための適性診断なので値段は高めですが、通常、受診する初任診断や適齢診断は、4,800円になっています。
※協会会員の場合、一部助成される場合あり。
それでは、それぞれの診断について解説していきますね。
2.初任診断
新たに運転者を雇い入れた場合、他の運送会社での経験・未経験にかかわらず、”初任診断”を受診させる必要があります。
ただし、例外もあります。
過去3年以内に、以前、勤めていた運送会社で”初任診断”を受診している場合は、当時の受診結果表を運送会社に渡せば、改めて受診する必要はありません。
…とはいえ、診断結果を大事に保存している人は稀で、たいていは破棄していることでしょう。
その場合でも、問題ありません。
適性診断の受診結果票を紛失した場合でも、当時、受診した機関に問い合わせれば、再発行(有料)してもらえます。
また、一般貨物自動車運送事業の運送会社に勤務していても、緑ナンバーに乗務せず、白ナンバーのみ乗務する場合は、初任診断の受診義務はありません。
3.適齢診断
指導監督指針(国土交通省告示第1366号)
⑶ 高齢運転者
適齢診断(高齢運転者のための適性診断として国土交通大臣が認定したものをいう。)を
65才に達した日以後1年以内(65才以上の者を新たに運転者として選任した場合には、選任
の日から1年以内)に1回受診させ、その後3年以内ごとに1回受診させる。
運送会社に勤める運転手の平均年齢が50歳前後になっていますよね?
65歳以上の高齢運転者も増えてきました。
仮に、65歳以上になると”適齢診断”を受診する義務が発生します。
適齢診断は、65歳に達した日から、1年以内に受診する必要があります。
また、運送会社を転職した場合には、本来、初任診断を受診する必要になるのですが、65歳以上になると、初任診断ではなく、適齢診断の受診が優先されます。
初任診断の場合には、早急に受診する必要があるのですが、適齢診断では、”選任の日”から1年以内に受診すればOKとなります。
いちど適齢診断を受診したら、その後は3年以内ごとに受診させる必要があります。
運送会社は、運行管理者研修・整備管理者研修などで2年度に1回受講など、年度に慣れているので注意して欲しいのですが、適齢診断の場合は「3年以内」という表現になっています。
年度ではなく、あくまでも「以内」なので、勘違いして行政処分を受けないように気を付けてくださいね。
4.特定診断
死者または重傷者を生じた交通事故を引き起こした場合、特定診断Ⅰか特定診断Ⅱに該当します。
①特定診断Ⅰ
死者または、重傷者が生じた交通事故を引き起こし、当該事故前の1年間に交通事故を引き起こしたことがない運転者、または軽傷者が生じた交通事故を引き起こし、その事故前の3年間に交通事故を引き起こしたことがある運転者が対象
②特定診断Ⅱ
死者または、重傷者が生じた交通事故を引き起こし、当該事故前の1年間に交通事故を引き起こしたことがある運転者が対象
詳しくは、別記事でフローチャートを作成していますので、よければそちらを参考にしていただければと思います。
また、状況によっては、事故惹起者の65歳の運転手が新たに入社してくる場合もあるかもしれません。
その場合、「特定診断」が優先され、他診断を受診しなくても問題ありません。(※特定診断を受診すれば、適齢診断・初任診断を受診したとみなされる)
下の記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。
5.一般診断
「一般診断を3年に1度、受診しなければいけない」という話を聞いたことはありませんか?
平成13年度の通達で「一般診断は、3年に1度受診するよう努めること」という話が出たため、一部の運送会社では今も実施しているところがあります。
ですが、一般診断はあくまで「任意」
義務ではありません。
6.適性診断とはどのようなもの?
私がはじめて適性診断を受診したとき「お前はドライバーに向いていないと言われるのではないか?」と思って、必死に高得点になるようにしていたことを思い出します。
けれど、この適性診断は「運転手として向いている・向いていない」とか「上手い・下手」を見る診断ではないんですよね。
交通事故につながる運転のクセ・弱点を知らせてくれる診断なんです。
自分のことはわかっているようでわかっていない…だから、診断結果で運転の特性を知ることを目的にしているんですね。
自分の弱点を知って改善する
適性診断の受診結果を見ると、指摘されているところがいっぱいあるので目を背けたくなるけれど、無視してはダメ。
悪いところがわかれば「対策」が取れるので、絶対に安全運転に繋がります。
たとえば「注意の配分」が低評価だったとします。
解説には「一点を集中する傾向があります。交差点右左折時にも対向車ばかり集中して、まわりの歩行者や自転車・バイクを見落としがち」と書かれていたら、今後、まんべんなく目を配るなど意識しておくと、事故率がグッと減るというわけなんです。
軽井沢のバスツアー事故の運転手の結果は?
軽井沢のバスツアー事故の運転手は事故を起こす1か月前に適性診断を受診していたらしいのですが、その内容は、「動作の正確さ」「注意の配分」が低評価だったようです。
因果関係はわからないけれど、診断結果を本人が受け止め、今後の運転に活かそうと感じていたら…変わっていたのかもしれません。
7.他県で適性診断を受診することができるか?
たとえば、A県で運営している〇×運送会社があるとします。
本来であれば、A県内にある自動車事故対策機構などの外部機関に受診の申し込みをするのが妥当な流れです。
しかし、〇×運送会社にとって、A県内にある適性診断の会場は、隣県の会場よりも遠方だったり、A県内の会場では予約がいっぱいで受診できない場合もあります。
じっさいに、〇×運送会社は、A県の端にあり、大きな隣のB県の方が適性診断の機関の方が予約も取れやすく近くにあることがわかりました。
そこで、〇×運送会社は考えました。
うちの乗務員には「隣県のB県で適性診断を受診させることはできないのか…?」…と。近くの会場で予約が取れやすいのであれば、隣県の会場の方に目が行くのは当然です。
では、実際に隣県の会場で受診ができるのでしょうか?
答えからいうと…
問題ありません。
自動車事故対策機構は、全国でシステムを統一しているので、乗務員がどこの都道府県で受診しても問題ないのです。
8.助成金の適用に問題はないのか?
通常、トラック協会の会員事業所であれば、適性診断を受診した場合、一部、もしくは全額助成されることになります。
ただし、問題は他県で受診した場合です。
この場合は、助成金は、どのような取り扱いをされるのでしょうか。
a.自動車事故対策機構の場合
現在、適性診断を主として実施しているのは「自動車事故対策機構」ですよね?
では、この自動車事故対策機構では、他県にある運送会社の受診者に対して、どのような取り扱いをしているのか見ていきましょう。
私の知り合いAさんは、他県で適性診断を受診しました。
所属している運送会社はトラック協会の会員事業所なので、本来なら助成金が適用されます。しかし、今回、訪問する会場の都道府県のトラック協会には加入していません。
「トラック協会はそれぞれの独立した団体だよな。他県で受診して場合は適用しないはず。」と思っていたようですが、他県で受診したにもかかわらず、運送会社が所属しているトラック協会の助成金が適用されたそうです。(受講した都道府県の助成金は適用されない)
念のため、自動車事故対策機構に確認したところ「全国でデータを共有しているので問題ないです。」といった回答をいただきました。
b.自動車事故対策機構以外は適用されない可能性が高い
ただ、これはあくまでも自動車事故対策機構での話です。
例えば、自動車事故対策機構以外にも、一部トラック協会や自動車学校でも適性診断を実施していますよね?
残念ながら、この場合は、他県で受診した場合、助成金が適用されない可能性が大です。
本来なら、他県で受診した場合、助成金が適用されないのですが、全国で対応できる自動車事故対策機構だからこそ、助成金適用してくれただけで、トラック協会や自動車学校が悪いというわけではないのでご注意を。
他県で適性診断を受診する場合、助成金が適用されるか否かについて、事前に受診機関に問い合わせてから予約しましょう。
9.どこの都道府県で受診しても再発行はできるの?
自動車事故対策機構は全国でデータを共有しています。
そのため、A県で受診していたとしても、B県で再発行の手続きをしても問題ないようです。(自動車事故対策機構で電話確認済み)
ですが、A県トラック協会で適性診断を受診した場合、B県トラック協会で再発行の手続きができるかというと残念ながらできません。
トラック協会で適性診断のサービスをしているのは、ごく一部。しかも、義務診断はどのカウンセラーが対応したのか重要になるので情報を共有できないのですね。
そのため、トラック協会で受診していた場合、再発行をするときは、その受診した同トラック協会で手続きをすることになります。
自動車学校も実施しているところがありますが、基本、同じ考えです。
受診した自動車学校でしか再発行の手続きができませんので注意しましょう。
10.運転者台帳への記載
義務の適性診断(初任・適齢・特別)を受診したら、運転者台帳に記入しましょう。
この受診履歴の記載を忘れている運送会社は、とても多いです。
記入していなければ、行政監査の際に、運転者台帳の「記載事項等の不備」(初違反・警告/再違反・10日車)として扱われるので気を付けましょう。
まとめ
他県で適性診断を受診するのは問題ないのですが、受診する機関で助成金が適用されるのか、できないのか異なります。
また、再発行の手続き等することが出てきたとき、どこの県で受診したか思い出さないと再発行ができない等、多少、弊害が出てくる可能性があります。
ただ、どこの県・機関で受診したのか、忘れないのであれば、他県で受診しても問題なさそうですね。
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