最近、”働き方改革”の影響なのか、従業員の拘束時間を軽減させるためにIT点呼に対する関心も高まっているような気がします。
私の知り合いの事業所でも、IT点呼の導入を検討していましたが、IT点呼に関する情報が少ないので苦労していました。
これでは、せっかくのIT点呼も宝の持ち腐れと言ってもいいかもしれません。
そこで、IT点呼を検討している運送会社のために、IT点呼のメリットとデメリット。さらには国への届出様式の記入例をまとめましたので、参考にしていただければと思います。
メリット① 人件費が削減できる
長距離輸送など早朝・深夜の点呼執行がある場合、昼間を運行管理者が、夜間を補助者が…というように役割分担して対応に当たらなければいけませんでした。
複数の点呼執行者を準備するため、運送会社は人件費に頭を悩ませていると思います。
けれど、IT点呼を導入すれば、不規則な時間帯でも別の営業所がカバーすることができます。
たとえば、
A営業所 … 早朝・深夜帯の点呼執行あり
本社営業所(24時間体制)…A営業所の早朝・深夜の点呼執行を行う
これで、A営業所の運行管理者は、昼間の点呼を行うだけで問題なくなり、定時に帰宅することができますし、補助者を雇い入れることも必要ない、残業代も減らせる…などの理由で導入している事業所もあります。
メリット② 働き方改革関連法案に対応しやすい
働き方関連法案の改正で、2020年4月1日より、中小企業もふくめ、ドライバー以外の運行管理者や事務職等については、一般則として、たとえ労使が合意したとしても、時間外労働の上限規制として、
年720時間以内(休日労働を含まない)
単月100時間未満(休日労働を含む)
2~6か月平均で80時間以内(休日労働を含む)
※原則・月45時間を超えることができるのは年間6か月まで
このルールを守らなければいけなくなりました。
そのため、運行管理者が、長時間、事務所にいることが難しいと判断した事業所は、IT点呼を導入しているところも多いです。
IT点呼を導入すれば、メリット①で紹介したように、人件費を削減できるだけでなく、法令遵守をすることができます。労働基準監督署の臨検が厳しくなる中、対応に苦慮した事業所が導入しているケースが多いです。
メリット③ 早朝・深夜でも法令遵守できる
大企業でも、営業所単位で見ると、少数精鋭で頑張っている5両しか保有していない事業所もあります。
そのような営業所で、多数の運行管理者を選任するわけにはいかず、早朝・深夜の点呼執行に苦労していることでしょう。
そのため、IT点呼を用いて、24時間営業しているところに、困難な時間帯をお願いしている事業所が多いです。
メリット④ 点呼を自動的に作成
システムによっては、 自動的に点呼記録簿を作成してくれるため、管理がすごく楽になるケースがあります。
デメリット① Gマーク更新等の届出が面倒くさい
全ト協のGマーク制度は、更新のたびに、更新間隔が2年・3年・4年と伸びますが、一定の期間ごとに更新を行わなければいけません。
Gマークは、無料ですが書類を揃える等の作業は時間がかかったり、意外と大変です。この作業はデメリットと言えます。
また、無事、更新できたとしても、認定番号が変わるため、併せてIT点呼の報告書の変更届を運輸支局に届出しなければいけないのも労力がかかります。
デメリット② 導入コストがかかる
IT点呼を行うには、IT点呼用の機器等を揃えなければいけません。
安くない投資にもかかわらず、Gマーク申請で「不合格」になってしまった場合、有効期限を過ぎたら、IT点呼が即使用できなくなってしまいます。
Gマークの更新は、2年・3年・のち4年毎に行わなければいけません。
(特例で使用しない場合)その都度、巡回指導や安全性の取り組み状況を審査されるのですが、すべての営業所の運行管理まで把握していない場合、杜撰な管理をしている事業所だけがGマーク不合格ということもあります。
また、事故報告書を支局に届出しなければいけない、重大事故を起こしてしまった場合も、3年間、Gマーク認定されません。
Gマーク認定がなくなったことで、IT機器を導入したにもかかわらず、補助者を雇い入れるなど、経営方針を変更しなければいけなくなった運送会社もあるくらいです。
IT点呼は人件費の削減に大きな影響を与える反面、不合格になるととつぜん使用できなくなるリスクもあります。
デメリット③ 大企業でなければ難しい
IT点呼を行うには、複数の営業所がなければ成り立ちません。(営業所―車庫間除く)
さらに、1つの営業所でもいいので、早朝・深夜帯など、長時間、運行管理者が滞在していなければ対応できません。IT点呼導入以上のハードルだと言えます。
1.IT点呼の届出方法
IT点呼の届出の様式は、インターネット上に公開されています。(様式)
「(別紙3)IT点呼・遠隔地IT点呼に係る報告書(新規)」を用いて申請することになります。じつは、届出に必要な様式はこの1枚だけ。(※添付書類は別途必要)
私のイメージでは、たくさんの様式があって、それぞれ記載しなければいけないと思っていたので意外でした。
では、営業所間のIT点呼で提出しなければいけない書類一覧を見てみましょう。
(提出しなければいけない書類・一覧)
①「IT点呼・遠隔地IT点呼に係る報告書」(2部)
② IT機器のパンフレット等、性能がわかる書面
③ 安全性優良事業(Gマーク)認定証(写)
この3点を準備すれば完了です。
なお、①「IT点呼・遠隔地IT点呼に係る報告書」は、事業者控えとして押印をしてもらう必要がありますので、2部準備しておく必要があります。
2.報告書の書き方
①「IT点呼・遠隔地IT点呼に係る報告書」(1枚)に必要事項を書けばいいだけなのですが、どのように書いていいのかわかりにくいです。そこでサンプルを作成してみました。
なお、このサンプル書類を作成する前提として…
① 本社営業所 … 車両80両 運行管理者・多数在籍 24時間営業
② 神奈川営業所 … 車両5両 運行管理者・1名在籍
※両方の営業所ともGマーク認定済み
※①本社営業所が、②神奈川営業所の早朝深夜の点呼執行を「IT点呼」で行うという前提で作成しています。という設定で書いていきたいと思います。
それでは上から順にみていきましょう。
2-1.住所・氏名・代表者等の記載
まず、様式の上位を見ますと「①日付、②宛先、③会社名、④代表者名、⑤連絡先等」を書く必要があります。
とくに注意しなければいけないのは、②の宛先ですね。
同じ管轄の運輸支局であればいいのですが、たとえば、今回のケースのように運輸支局の管轄がIT点呼実施営業所(例では本社)と被IT点呼実施営業所(例では神奈川営業所)で異なる場合は、それぞれの管轄する運輸支局長あてに提出しなければいけないようになっています。
今回の例でいえば、群馬運輸支局、神奈川運輸支局、それぞれ届出の必要があるというわけです。
2-2.IT点呼を行う営業所
「IT点呼を行う営業所」の項目では、【どこでIT点呼を行うのか】を記載しなければいけません。今回は、いちばん需要のあると思われる営業所間でのIT点呼の記載例を紹介します。
① 本社営業所 … 車両80両 運行管理者・多数在籍 24時間営業
② 神奈川営業所 … 車両5両 運行管理者・1名在籍
※両方の営業所ともGマーク認定済み
まず、様式のいちばん左の「営業所・車庫間」の記載方法については、実施側とIT点呼を受ける側がどこか記載する必要があります。
例でいうと、24時間営業でいつでも運行管理者がいる「本社営業所」が実施側。点呼のフォローを受けたい「神奈川営業所」が被実施側になります。
次に「実施位置」についてですが、ここでは営業所の住所を記載することになります。
続いて「Gマーク認定番号及びGマーク認定期間」についてですが、添付する「Gマーク認定証」に詳細が書いてあるはずなので、その内容をそのまま様式に書き写しましょう。
2-3.その他
最後に「IT点呼を行う時間帯」ですが、A営業所ーA車庫間では24時間OKなのですが、営業所間のIT点呼では、連続16時間までと決められています。
そのため、事業所として【〇時から〇時までIT点呼を行う時間に設定します。】ということを記載しなければいけないので書いておきましょう。
そして、最後に「IT点呼予定日」や「✔」を入れることになるのですが、4の2つ目の✔欄と詳細については、Gマークの認定を受けていない事業所が【離れている認可車庫とIT点呼を行うときのみ使用する欄】になっています。
Gマークの認定を受けていれば使用することのない項目ですので、気にしなくてもOKです。
騙されてはいけない点
「インターネットを見ると直近の総合評価でA~Cであり、点呼の項目の判定が「適」であった場合、IT点呼ができる!」と書いているサイトもありますが、肝心なところが書かれていません。
Gマーク認定事業所以外でもIT点呼ができるようになったけれど、あくまでも『事業所とその事業所の車庫間による点呼」がIT点呼が認められただけです。
Gマーク認定事業所と同じIT点呼をすることができるわけではありません。
営業マンに言葉巧みに騙され、IT点呼の機器を導入してしまった運送会社がいるので、みなさんも気を付けておきましょう。
3.提出期限
IT点呼を実施しようとする場合、IT点呼実施営業所と被IT点呼実施営業所を管轄する運輸支局長等に、IT点呼を実施する予定の原則10日前までに報告書を用いて届出することになっています。
4.その他
提出先は管轄の運輸支局の整備部門になります。
わからない場合は、整備部門に問い合わせをしましょう。