近年、運送業界では「ツーマン運行」の導入が注目されています。
これは、運転手2名が1台の車両で交替しながら運転する方式で、特に長距離や長時間の運行において安全性と効率性を高める手段として活用されています。
しかし、ツーマン運行には特有の点呼手続きや労働時間の管理が求められます。
本記事では、ツーマン運行に関する点呼のタイミングや労働時間の取り扱いについて、わかりやすく解説します。
1. ツーマン運行とは?
ツーマン運行とは、1台の車両に2名の運転手が同乗し、交替で運転を行う運行形態です。
これにより、長時間の運行でも各運転手の負担を軽減し、安全性を確保することが可能となります。
特に、長距離輸送や夜間運行など、運転手の疲労が懸念される場面で効果的です。
2. ツーマン運行の点呼手続き
運送業界では、運転手の健康状態や車両の安全性を確認するために「点呼」が義務付けられています。
ツーマン運行の場合、以下のタイミングで点呼を実施します。
2.1 乗務前点呼
出庫前に、点呼場で運転手Aと運転手Bの双方に対して「乗務前点呼」を行います。
これは、運行開始前に運転手の健康状態や車両の状態を確認するための重要な手続きです。
2.2 乗務後点呼
運行終了後、拘束時間が最大20時間に達した時点で、休息に入る前に運転手Aと運転手Bが一緒に「乗務後点呼」を受けます。
これにより、運行中の問題点や運転手の疲労度を確認し、次回の運行に備えます。
2.3 中間点呼
長時間の運行中には「中間点呼」を実施することがあります。
この場合、運転手Aが運転中で運転手Bが休憩中の場合、運転手Bのみが中間点呼を受けることが可能です。
逆の場合も同様で、個別に点呼を行うことが認められています。
3. ツーマン運行時の労働時間の取り扱い
ツーマン運行では、労働時間の管理が特に重要となります。
以下に、労働時間の取り扱いについて解説します。
3.1 拘束時間と労働時間の定義
- 拘束時間:運転手が事業者の指揮命令下にある時間のことを指し、労働時間と休憩時間を合わせたものです。
- 労働時間:実際に業務を行っている時間を指します。
- 休憩時間:業務から解放され、自由に過ごせる時間を指します。
ツーマン運行では、1日の最大拘束時間を20時間まで延長でき、休息期間を4時間まで短縮することが可能です。
ただし、これは車両内に身体を伸ばして休息できる設備がある場合に限られます。
3.2 仮眠の取り扱い
運転手Aと運転手Bが交替で運転し、片方が仮眠を取る場合、その仮眠時間は「休憩時間」として扱われます。
つまり、仮眠は労働時間には含まれませんが、拘束時間には含まれます。このため、拘束時間から休憩時間を除いた時間が労働時間となります。
3.3 月間の拘束時間の上限
ツーマン運行の場合でも、1か月の拘束時間は293時間以内と定められています。
これはワンマン運行と同様の基準であり、労使協定を結ぶことで320時間まで延長することが可能です。
ただし、1日あたりの拘束時間が15時間を超える回数は、1週間に2回以内とする規定はツーマン運行には適用されません。
4. ツーマン運行の運転時間の管理
ツーマン運行では、各運転手の運転時間を個別に管理する必要があります。
運転日報には、運転を交替した地点や日時を詳細に記録し、各運転手の運転時間を明確に把握することが求められます。
これにより、各運転手の労働時間や休憩時間を適切に管理し、法令遵守を確保します。
5. ツーマン運行における拘束時間の重複
通常の運行では、連続する運行日の間で拘束時間が重複する場合があります。
例えば、1日目の運行終了時間と2日目の運行開始時間が近接している場合、その間の時間が両日の拘束時間として計上されることがあります。
しかし、ツーマン運行では特例として、各運転手の乗務開始から終了までの拘束時間をそれぞれ独立して考えるため、拘束時間の重複が発生しない仕組みとなっています。
この特例によって、ツーマン運行はより柔軟なスケジュール管理が可能となります。
6. ツーマン運行の運行指示書の必要性
ツーマン運行において、運行指示書が必要となる条件があります。通常の運行に比べて、ツーマン運行では長時間の運行が想定されるため、適切な指示書の準備が重要です。
6.1 運行指示書が必要な場合
運行期間が2泊3日以上となる場合、運行指示書の作成が義務付けられています。特に、中間点呼を電話で行う必要がある長距離運行では、運行指示書を通じて各運転手のスケジュールを明確にすることが求められます。
6.2 指示書の内容
運行指示書には、以下の情報を記載する必要があります:
- 運行ルート
- 運転手の交替地点と時間
- 仮眠や休憩のタイミング
- 緊急時の対応策
これらの内容を明確にすることで、運行の安全性を高めるとともに、法令違反を防ぐことができます。
7. ツーマン運行における休息の定義
ツーマン運行時の休息は、通常の運行とは異なる取り扱いがなされます。休息時間は、運転手が完全に業務から解放され、身体を伸ばして休むことが可能な状態を指します。
7.1 車両停止時の休息
運転手が車両内で仮眠を取る場合、車両が停車していることが必要です。休息時間は少なくとも4時間確保する必要があり、この間は車両のエンジンを停止させるか、騒音や振動を抑えた環境を整えることが求められます。
7.2 連続運行の制限
ツーマン運行であっても、24時間の連続運行は認められていません。4時間以上の休息を挟むことで、運転手の疲労軽減を図ることが義務付けられています。
8. ツーマン運行のメリットとデメリット
ツーマン運行には、多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。
8.1 メリット
-
安全性の向上
運転手が交替で運転を行うことで、疲労による事故リスクを軽減できます。 -
長距離輸送の効率化
長時間運転が可能になるため、長距離輸送の効率が向上します。 -
法令遵守の促進
点呼や休息時間の確保など、法令を遵守しやすい運行形態です。
8.2 デメリット
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コスト増加
2名の運転手を確保するため、人件費が増加します。また、運賃が低い場合、コストに見合わない可能性があります。 -
運行スケジュールの制約
休息時間の確保や交替のタイミングによって、運行スケジュールが制約を受ける場合があります。 -
実施へのハードル
仮眠設備の整備や運行計画の見直しなど、ツーマン運行を導入するためには準備が必要です。
9. ツーマン運行の将来展望
ツーマン運行は、改善基準告示違反の取り締まりが厳格化される中で注目されており、安全運行を目指す運送会社が増加しています。一方で、コストや運賃の問題から、実施に踏み切れない企業も少なくありません。
しかし、ドライバーの高齢化や人材不足が進む中、ツーマン運行は運送業界全体の安全性と効率性を向上させる重要な選択肢となっています。政府や業界団体による支援策が拡充されれば、さらなる普及が期待されるでしょう。
結論
ツーマン運行は、安全性を高め、法令遵守を促進する効果的な運行形態ですが、労働時間管理やコストの課題をクリアする必要があります。運送会社としては、運行計画を綿密に立て、運転手の健康と安全を最優先に考えることが求められます。安全で効率的な運行を実現するために、ツーマン運行の導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
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