先日、とある社長とお会いしたときに、ポツリと悩みを打ち明けられました。
乗務員には、さまざまな方がいらっしゃって、ときに突然、「辞めさせてください。」とか音信不通になることが本当に多いです。今回もそのことに関連した悩みです。
話を聞くと、ある乗務員から突然、「今日、都合により辞めますので、本日中に給料を支払ってもらってもいいですか?」と言われ、続けて「すぐの支払いが無理なら、労働基準法で決まっている7日以内で清算をして欲しい。」と訴えられたそうです。
最近は、さまざまな情報がインターネット上に掲載されています。
そこで得た知識で少しでも利益を得たいと考えて「辞めたその日に給料を払え!」という無理難題を言ってくるケースもあるようなのですが、このようなとき、会社側は、彼の要求に応じなくてはいけないのでしょうか?
1.労働基準法でいう退職者に対する賃金等の取扱はどのようになってる?
まずは、労働基準法で退職者に対する賃金等の取扱いがどのようになっているのかおさらいしてみましょう。
【労働基準法 第23条第1項】
「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない」
このように記載されています。
この条文をみると…
【権利者の請求があった場合】【7日以内に賃金を支払らなければならない】ということになっているので、その場で「すぐに支払って欲しい!」という訴えは無茶だとしても、7日以内の清算を要求すること自体、法的に根拠があるように聞こえます。
ですが、実際には、そうではないのです。
…というのも、その前に【退職日がどうなるのか】という問題があるからです。
2.前提として退職日はいつかが焦点
乗務員の言う「7日以内に支払って欲しい!」という訴えは「退職日から数えて」というのが前提で、けっして【退職の申し出のあった日】を意味しているわけではありません。
したがって、このようなケースでは、そもそもの前提として「退職日がいつか」ということがまず問題であり、そこからカウントが始まることになるのです。
3.退職すると申し出たからといって労働契約が終了するわけではない
そもそも、労働者である乗務員が「本日限りで退職します!」と突然申し出たとしても、労働契約がその日限りで終了するわけではありません。
とうぜん、就業規則で決められた手続きに従って、使用者の承認を得たうえで退職するという事故退職の手順があるはずです。
…とはいえ、今回の社長の悩みのように、一方的に会社に「退職します!」と通告して、即日の退職を求めるのは日常茶判事。なかには連絡もなしということもあります。
4.民法上の労働契約・解約の取扱いは?
じつは、労基法では、労働者からの一方的な退職については何ら法的な規制を設けていません。そのため、民法の一般原則によることになります。
つまり、期間の定めのない労働契約はいつでも解約の申し入れをすることができ、
【民法 第627条第1項】
「雇用は解約の申入れ日から2週間を経過することにより終了する」
となっているので、あくまでも2週間の経過は必要であり、その間、労働義務が残るということになります。就業規則を見てみると多くの場合、退職の申し出は【2週間前に行うこと!】と書かれているのはこのためなんですね。
もちろん、「労働契約の合意解約」ということで、会社が承認さえすれば即時退社も可能です。
5.即時支払い、7日以内の請求要求に応じる必要なし
このように見てみると、今回の社長の悩みを法的に見てみると、少なくとも退職の申し出から2週間後でなけえれば退職は成立せず、結論として「即時清算あるいは申し出から7日以内の清算の要求に応じる必要はない」ということになるのです。
なお、賃金については、支払日の到来前でも請求があれば、7日以内に支払わなければいけませんが、退職金については、そのような決まりがなく、あくまでも就業規則等で定められている支払い時期までに支払えば足りるという行政解釈がされています。
まとめ
今回は、法的解釈の視点でお話をしましたが、じっさい、現場からすると、面倒な乗務員とは早くオサラバしたいのが現実ですね^^;
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